重ねた嘘、募る思い
翌日、月曜日の昼休み。
「今日、コーヒーの配達断ってるんだって。紘達くんがおやすみらしい」
先輩が残念そうに肩を落として受話器を元に戻した。
紘達くんというのは陽さんのこと。
宮内紘基に似ているのと、コーヒーの配達員の『達』をミックスさせている安易なニックネーム。
元々休みの予定だったのだろうか。先輩は『今日』と限定して言っていた。きっとお店側からそう言われたからだろう。
何の気なしに制服のベストから携帯を取り出してみて見ると、メールが一件届いていた。
送信主は真麻。しかも数分前に受信したものだった。
昨日は一日真麻と会っていなかった。夜勤じゃない日にしては珍しい。昨日一日留守にしていたのかもしれない。家に来ないのも珍しいことだった。
『陽が酷い風邪で寝込んでる。今日は遅番だから代わりに行って何か作ってあげて。仕事が終わったら私も行く』
その一文を読んで掠れた声が漏れ出すくらい驚いてしまっていた。
もしかして土曜日の雪の中、陽さんはあの木の下にいたのかもしれない。
それならわたしのせいだ。
メールの一文の下には陽さんの家の住所が書かれていた。
うちの会社の最寄り駅から急行で三つ先の神南町駅から徒歩十五分と書かれている。わたしが通勤で使っている同じ沿線の通過する駅だ。うちはさらに急行で三つ先。陽さんの家とうちの最寄駅の間に真麻の病院とT-Bランドがある。
廊下に出て、真麻に電話をする。
もし出なかったらメールを送ろうと思っていたらすぐに通話に切り替わったけど残り少ない休憩時間だったようで用件だけ言われてすぐに切れてしまった。
陽さんは喉が痛くて食事もろくにとれていないこと、家の鍵を開けておくように言ってあるから勝手に入っていいということ。
二十一時には仕事を終え、それから三十分くらいでつけると思うからそれまで陽さんの家にいてほしいとお願いされた。
すっかり恋人同士なんだなと思ったら胸が痛んだけど、今はそんなこと言ってられない。
携帯で喉が痛い時にいい食事を検索し、仕事を早く終えて十七時ジャストに会社を飛び出した。