重ねた嘘、募る思い

 降りたことのない神南町駅で携帯の地図を見ながら陽さんの家を目指す途中にスーパーを見つけて寄った。
 とりあえずいろいろ買っていこうとかごに入れていたら袋ふたつ分がパンパンになってしまった。
 重くてゼーゼー言いながらようやくついた陽さんの家は二階建ての昔ながらの木造アパートだった。
 急行が止まるそれなりに栄えた駅の徒歩で十五分圏内だから、もう少し新しい感じのアパートを想像していたんだけど昔の映画に出てくる下宿みたい。
 周りは住宅地できれいなマンションや家もあるのに、このアパートだけタイムスリップしてきたような感じだった。外付けの階段を上ると、軋むような音が鳴るのは気のせいじゃないはずだ。
 
 上りきって一番奥の扉に『小鳥遊』と書かれている表札を見つけた。それも少し茶ばんでいる。
 鍵は開いていると真麻が言っていたけどいきなり開くのは失礼だよね。かといってインターフォンがあるわけでもないし。
 意を決して軽く扉をノックしてみたけど何の反応もなかった。
 眠っていて聞こえてないだけならいいんだけど、具合悪くて倒れてるとかじゃなければ。

 ロングスカートの隙間から風が入ってきて寒い。
 ここで突っ立っていてもしょうがないよね。陽さんが寝ているのなら気づかれるはずもないんだから。
 
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