重ねた嘘、募る思い
「おじゃまします……」
勇気を出して静かに扉を開き、中を覗くと真っ暗だった。
手探りで壁沿いにあるだろう電気を探し、スイッチをつけると入ってすぐ右にシンクがある。正面のすりガラスの扉の向こうがきっと部屋になっているんだろう。
なるべく音を立てないように上がり、数歩歩いただけでたどり着くそのすりガラスの前に立ち尽くす。
真っ暗なこの向こうに陽さんが寝ていると考えたら胸がざわめくようだった。
罪悪感と緊張が入り交じったような感じとでもいうのだろうか。許可を得ているわけじゃないのに忍び込んで申し訳ございません的な。
いくら真麻から頼まれたからって陽さん本人の意思ではないはずだし。
なるようになれといった気持ちでゆっくり扉を引くとぎしぎしと音がした。
なるべく音を立てたくないのに!
そう思ったけど立て付けが悪いんだから仕方がない。
ようやく開いた扉の向こうにはこたつとローボードの上に置かれた小さなテレビが一台あるだけで、陽さんの姿はなかった。
部屋の中を覗き込むと右にふすまがあり、もうひと部屋ある。その奥が寝室だったようだ。
開ける前の緊張を返してほしいと行き場のない憤りを持て余してしまう。