重ねた嘘、募る思い
ふすまを開けると、こっちに足を向けた状態に敷かれている布団で眠る陽さんの姿があった。
こっちの寝室は左の窓際にローボードとデスクトップのパソコンが一台置いてあるだけであとはほとんど何もない。とっても寂しい部屋。
よく眠っているようだけど、呼吸は浅くて苦しそう。
額には冷却シートが一枚貼ってあるけどすでにカラカラの状態。全く意味がないからはがしてしまおう。
すぐにキッチンで暖かいお湯を用意し、湿らせたタオルで軽く顔を拭った。
吐く息もかなり熱い。身体全体から熱気を発しているようでまだ体温が高いことが伺える。
苦しそうな顔が一瞬緩んで、その双眸がゆっくり開いた。
「……え?」
ぼんやりとした表情の陽さんがわたしを見て、目を見開いた。
まさかわたしがいると思わなかったのだろう。
驚きが隠せないと言った様子だけどそれ以上言葉が出ないみたいだ。
カサカサに乾燥した唇が小さく震えている。怒っているようには見えなかったけど勝手に顔を拭かれていやだったのかも。
「ごめんなさい。真麻がすぐに来れないから……代わりに来ました」
「風邪、うつる……」
「大丈夫です。マスクします。何か食べられそうですか?」
陽さんが気を遣うと思ってマスクを買ってきた。
本当は陽さんにつけさせるのがいいんだろうけど、呼吸がさえぎられて苦しいかもしれないから。
小さくうなずく陽さんを起こしあげ、買ってきたポカリスエットを飲ませてもう一度横にする。まだ汗はかいてないみたいだ。
寒気はしないか尋ねると『しない』と返ってきたので氷枕を用意して頭の下に敷くと陽さんが心地よさそうに目を閉じる。
来てよかった、純粋にそう思った。
だけどその思いはすぐに覆されることになるとも知らずに。