重ねた嘘、募る思い
10.陽さんとわたし、そして真麻
とにかく食べるものを作ろう。
うれしさのあまり気合を入れてお気に入りのセーターの袖をまくりながらキッチンに戻ると、自分の右手にカラカラになった冷却シートが握られていることに気がついた。
そうだ、新しいの買ってきたんだ。貼り付けてこないと。
ビニールの中から取り出した冷却シートの箱を開けつつ陽さんの寝室のふすまの前に歩み寄ると、小さな掠れた声が聞こえてきた。
「のんちゃんには言わない約束だったろう。困るよ」
それはとても迷惑そうなトーンの声で。
胸の辺りに手を当てると、どくんどくんと脈打ってるだけでなく音まで聞こえてきそうだった。
「うん、早く帰ってもらいたいけど……えっ、そんな遅くまで?」
声を出さないよう、手で口を覆う。
きっと話している相手は真麻だ。間違いない。遅番が終わるまでわたしがここにいることになっていると話しているのかもしれない。
やっぱりわたしが来ることは迷惑だったんだ。
体調の悪い陽さんに真麻と口論させるのは申し訳ない。
なるべく足音を立てないようこたつのある居間からキッチンに戻り、詰めていた息をはあっと漏らした。
今すぐ帰りたい。
やっぱり来なければよかった。一瞬でも来てよかっただなんて思ってバカみたい。
もしかして風邪をひいたのだってわたしが待ち合わせに行かなかったせいじゃないかもしれない。
それだったらとんだ自意識過剰だ。
だけど真麻と約束したから……。
涙が出そうなのを堪えてキッチンに向かう。とにかく頼まれたことだけはきちんと済まさなきゃ。