重ねた嘘、募る思い
 
 まずゆずと蜂蜜、生姜を使ってゆず蜂蜜茶を作る。
 うちでは風邪をひくといつも母がこれを作ってくれる。
 夜飲むと不思議と翌日の朝には喉の痛みがきれいに消失しているから陽さんにも効けばいいな。
 あと喉をあっためなくっちゃ、これ大事だった。

 浴室にあるフェイスタオルを一枚取り出して寝室に向かうと話し声は聞こえなくなっていた。
 目を閉じて息苦しそうに呼吸を繰り返す陽さんの額に冷却シートを貼るとうっすらと瞼が開いた。何度も起こしてしまって申し訳ない気持ちになる。

「の……ん、ちゃん」
「これ、少しずつでいいんで飲んでください。喉にいいんで」

 手を貸して顔を少し横に向けると素直に応じてくれた。いやでも抵抗する元気もないんだろうな。
 首の周りをタオルで保温させてからスプーンにゆず蜂蜜茶を掬い、口元に近づけるとゆっくりと啜ってくれる。
 初めは少し喉にしみたのか目頭にぎゅっと皺を寄せていたけど、数口飲むごとに慣れたようで穏やかな顔つきに変化してゆく。

「おいしー……」

 囁くくらいの小さな声が聞こえた。
 その言葉がすごくうれしかった。こうして飲ませているのが真麻だったらもっとよかったよね。
 そんなこと言っててもしょうがないけど。
 半分くらい飲むと、少しうとうとしたように陽さんが目を閉じた。これだけ飲んでくれれば十分だろう。

 飲みかけのマグカップを枕元において寝室を後にした。
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