重ねた嘘、募る思い
「陽さん、雑炊食べられますか」
顔全体が真っ赤な陽さんの肩辺りを軽く揺するとうんとうなずかれた。
きっとうとうと程度でしか眠ってなかったんだろう。わたしがキッチンでカチャカチャうるさくしていたから眠りにもつけなかったのかもしれない。
緩慢な動きでようやく起き上がった陽さんが首をまわすとコキコキと音が鳴る。
壁に寄りかかるように座らせ、腰の辺りに居間から持ってきた座布団を折り曲げてあてがうと姿勢が安定したようでふうっと大きな吐息を漏らした。
このくらいの動きでも身体がだるいのだろう。わたしも熱がある時は身の置き場がないような倦怠感に襲われるからわかる。
「あれ、こんな小さな土鍋うちにあった?」
「こういうの、百円均一で売ってるんですよ」
掠れた声の陽さんがぼんやりした目つきでわたしが土鍋から小鉢に雑炊を掬うのをじっと見つめていた。
その小鉢を渡すと熱い手が伸びて来てわたしの手の甲にそっと触れる。
決してわざとじゃないしむしろ自然だったのにその感触に思わず手を引きそうになる自分が恥ずかしい。意識しすぎだ。
土鍋を載せたお盆ごと陽さんのそばに寄せ、立ち上がる。
「隣の部屋にいますから、ゆっくり食べてください」
わたしがいないほうが食べやすいはずだから。
「のん、ちゃん」
呼ばれたのには気づいてた。
だけどわたしは振り返らずにふすまを閉めた。