重ねた嘘、募る思い

「っ!」

 耳の近くで聞こえた掠れ声。
 陽さんがわたしと真麻を勘違いしていることが瞬時にわかった。

 わたしは真麻じゃない。
 迷惑がられているとわかっていながらもここにいた。
 だけどもう、苦しいよ。

 こみ上げてくる涙がパジャマを濡らす前に必死に身をよじってその腕から逃れることしかできなかった。

「あ……」

 わずかに瞼を開いた陽さんがこっちを見て、小さな驚きの声を上げる。
 きっとわたしは恨みがましい視線を向けていたに違いない。
 半泣きの顔を見られたくなくて、そのまま寝室から逃げ出した。

「のんちゃん、まっ――」

 わたしの名を呼ぶ陽さんの声がいやにクリアに聞こえた。
 そしてガチャンと何かを倒したような音も。
 だけど知らない、知るもんか。
 もう真麻がここに来るはず。わたしの役目はもう終わった。
 こたつの脇に置いてあった鞄を引っ掴んで玄関に駆け込む。うまく足が靴に入らずかかとをつぶしたままドアを開けた。
 
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