重ねた嘘、募る思い
「わっ!」
ドアの前にまさに今到着した真麻がいた。
ぶつかりそうになってお互いのけぞるように身を引いていた。
その時真麻と目があってしまい、怪訝な表情を向けられているのに気づく。
「どうしたの、のん」
「っ、帰るからっ」
「ちょっと待ってよ、なんで泣いてるの?」
玄関の扉と真麻の横を通り過ぎようとしたのに、すかさず腕を掴まれてしまう。
「陽に何かされたの?」
「ちっ、がう! なんでもないから離して」
「そんな状況で帰らせられる訳ないでしょ、落ち着いて中で話そ」
「やだっ、帰るっ!」
駄々っ子のような態度を取っているのはわかる。だけど一刻も早くここから離れたかった。
それなのに非情にも背後に人の気配を感じた。
真麻が大きく息を飲む音を聞いて振り返ると、そこには腰を屈めた状態で立位を保っていること自体が辛そうな陽さんがキッチンまで出てきていた。
シンクのふちに肘を乗せ、寄り掛かるようにしてようやく立っている。
「待ってよ……のんちゃん」
へらっと一瞬だけ力なく微笑んだ陽さんの両肩が激しく上下している。
こんなにも苦しそうなのになんで追いかけてくるの。
「こんな状況の陽を置いて帰るなんてことしないわよね、のん」
真麻の指がわたしの腕を容赦なくぎりりと掴みあげた。