白雪姫の王子様
『ねーねー、おかあさん見てこのえほん!』
『どれどれ?』
元気に声を弾ませたのは、真っ黒な髪をしたツインテールの女の子。
何かに興奮した様子で母親の服を何度も引っ張っている。
女性がふとその視線の先を覗き込むと、少女はたくさんある絵本の中から1つを指差し叫んだ。
『さゆきひめ!』
『あら、よく読めたわね』
『えへへ』
少女は嬉しそうに、だけどちょっぴり恥ずかしそうに笑った。
そんな幼い彼女の前髪を、母親は愛おしそうに撫でた。
『でもね、これは“しらゆきひめ”って読むのよ』
『えーでも、白雪(さゆき)とおなじ字してるよ?』
『ふふ、そうね』
さっぱり意味がわからない少女は、不思議そうに目を丸くしている。
すると突然、何か思いついたように口を開いた。
『ねぇおかあさん!』
『なあに?』
『あのね、さゆきのまえにも、このお話みたいにかっこいい“おうじさま”があらわれてくれるかな?」
輝く瞳で問う娘に、母親はにこりと微笑んだ。
『……ええ、いつかきっと。この広い世界の中で、白雪姫(さゆきひめ)だけの王子様があなたのことを捜しに来てくれるわ』
すると少女はまた嬉しそうに笑って、胸をいっぱいにときめかせた。