白雪姫の王子様
何度も何度も何度も、狙いを定めた一撃が犀川くんに向けて繰り出される。
しかし、それは一度たりとも、服を僅かに掠ることさえしなかったのだ。
「は……? 嘘だろ。……ん、だよ」
形勢逆転を許してしまった男は、混乱した様子で瞳を揺らす。
そして、ついに自棄でもおこしたのだろうか。いきなり狂ったように奇声を発しながら、ナイフをめちゃくちゃに振り回し始めた。
「っ、しょう……畜生! 畜生! 畜生ォォォ!」
「……っ!」
刹那、犀川くんは俊敏に身を翻したかと思うと、ナイフの腕が伸ばされるのを一瞬で見極め右手でその動きを封じた。
そして。
──ボトッ。
ぬかるんだ地面に、ナイフが沈む音がした。