愛してるの代わりに
ふぅ、と小さく息を吐く中塚。
「崎坂さん、今付き合っている人とかいるの?」
「え……?」
「いるの?」
「いえ、いませんけど」
「じゃあ僕と、付き合ってくれないかな。……結婚を前提に」
「ずっと気になってたんだ、崎坂さんのこと」
今まで生きてきてこんな場面に遭遇しなかったわけではない。
しかし、紡がれる言葉は毎回同じだ。
「ごめんなさい。私、好きな人がいるんです」
沈黙を破ったのは中塚だった。
「それ、前の彼氏? 忘れられないとか?」
「いえ、私の片想いです。一度も彼と恋人同士になったこととかはありません」
「脈はあるの?」
「……、多分、向こうは私のこと、そういう風には見ていないと思います……」
「多分、ってことは気持ちを伝えたことないんだ?」
「はい……」
「崎坂さん、顔上げて」
気持ちと比例して、顔までもが下を向いていたらしい。
少し困ったような表情の中塚と目が合った。
「ごめん、崎坂さんを困らせようと思って言っているわけじゃないんだ。実はね、実家の母から強く見合いを薦められていて」
「お見合い、ですか」
「ああ、僕も今年で30だし、今まで特別親に恋人の話とかしたことなかったから心配なんだろう。でも、僕は崎坂さんのことが気になっていたからいつも断っていたんだ。だけど、毎回断っていると、今度は理由を聞かれ始める。もうこれ以上逃げられない。だから、こうして気持ちを伝えようと思って今日時間をもらったんだ」
「ちょっと失礼なことを言うかも知れないけど」
少しばかりの沈黙の後。
「崎坂さんも周りから言われたりしない? 将来のこと」
「はい、言われます」
「今までは聞き流してくれていたことが、年齢を重ねるにつれて流してくれなくなってくる場合もある。もしかしたらご両親が勝手に結婚相手を決めてくることもあるかも知れない。そうなった時、彼に気持ちを伝えないままで後悔しない?」
黙ったままの雛子を真っ直ぐ見つめて、中塚は続ける。
「僕は後悔したくなかった。告白して振られた今も、後悔はしていないよ」