愛してるの代わりに
家に戻り、携帯電話に表示された『宮脇慎吾』の文字を見つめる。

中塚に言われたことが、雛子の心にずっしりと圧し掛かっていた。




確かに外野からの圧力は年々強くなっている。

母親からは何かにつけて「いい人いないの?」と言われるし、父親も娘のいないところでは心配の声を上げているらしい。

まだ嫁ぐつもりはないらしいが、「お姉ちゃんがちゃんと先にいってくれないと」などと、5歳離れた妹にも言われることもある。

昼間の同僚との話だってそうだ。

学生時代の友人とも、会えば自然とその話になってくる。




そろそろ、この初恋にけじめをつける時期になっているのかも知れない。




もう雛子は十分大人だ。

きっと慎吾への気持ちが成就しなくても、『いい幼馴染』の関係は崩れない程度には立ち振る舞うことができるだろう。

14歳の頃のまま立ち止まっていては先へ進めない。




小さく両手でこぶしを作り、発信ボタンに手をのばす。




『もしもし』

呼び出し音5コールで電話は繋がり、真っ白になる頭の中で、第一声を発した。

「し、慎くんっ。イマ、お時間、だ、だいじょーぶですかっ?」

『雛、言葉がカタコトになってるけど、お前こそ大丈夫かよ』

「だ、だだだだダイジョーブっす!」

『……何かあったか? 市民の皆様に何かされたか?』

「そ、そんな! 慎くんの地元の市民はみんな、優しい人ばかりです!」

『それならいいけど。時間あるからゆっくり話せ、ちゃんと頭の中整理して』

「ううっ……。慎くん、優しいねぇ」

『パニックの次は泣くとか情緒不安定だなあ』

「ごめん」

『謝る必要ねぇよ。雛に泣かれるのは慣れてるし』




ああ。この優しさの中でずっと包まれていたい。

でも、もしかしたら今から発する一言で、この優しさから抜け出さないといけないかも知れない。




一瞬、このまま告白するのはやめようかとさえ思ったが、ここでやめてしまっては一生気持ちを伝えられないままだ。

雛子は電話を更に握りしめ、大きく息を吸った。

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