婚約者の憂鬱






「……ユベール卿以外、全て女性の名前ですね。
 この方たちの中で何か不審な動きをした人物はいますか。ハーベスト卿」

 出来上がった名簿に目を通したカインは、少し考えたあとに口を開く。
 問われたアレックスの方はというと、頭を掻いて照れたように笑うだけだった。

「そこまでは覚えてないー」

「何でだよ!」

 ジェラルドは、たまらず悲鳴をあげる。
 ちゃっかり自分だけは難を逃れたくせに、いつ『紅灼竜の牙』を紛失したか覚えていないとは。

 アレックスは珍しく眉間に皺を寄せた。



「あのね、勤務外で酒を飲んでたんだよ? ジルを護衛してたなら話は別だけど、そこまで警戒して見てる訳ないじゃん」

 一種の言い逃れともとれるが、そもそも剣を紛失したのはジェラルドの落ち度だ。
 アレックスを責める方が間違っている。



「揃いも揃って、酒に呑まれた役立たずという訳ですか。情けない」

 そこへ、カインが呟くように毒づいた。
 即刻、その口を塞いでやりたいと思うのは、自分の卑小さだけではないはずだ。




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