婚約者の憂鬱
北宮殿の兵舎前。
剣の打ち合う音が響き渡る。
「畜生ッ!」
恐ろしい形相のジェラルドが、剣を振り回していた。
「カイン、おまえかッ!?」
「そんなみみっちいこと、誰がしますか」
少し離れた場所に、気だるい様子のカインが座っている。
頬杖つきながら、ジェラルドを眺めていた。
「じゃ、誰がシルビィに喋ったんだよ!」
鬼気せまる迫力に、騒ぎを聞きつけて見学に来た騎士たちは皆ドン引きだ。
ジェラルドの不機嫌の原因は、昨日の一件が婚約者の耳に入ったことだった。
今朝、シルビア女王に謁見を願い出たところを断られる。
それだけならまだしも、王宮の出入りも一部制限されてしまった。
理由は多忙というが、本当のところは怪しい。
まさに、身から出た錆。
「ド畜生ッ!」
「ジル。騎士たる者、言葉遣いは丁寧に」
手合わせの相手を務めるラファールは、どうでもいいことをたしなめる。
めちゃくちゃなジェラルドの攻撃を、全て受け流して息ひとつ乱していない。
かなりの手練れである。
そこへ、上機嫌のアレックスが現れた。