婚約者の憂鬱
北宮殿の兵舎。
陽気な昼下がりに、ラファールがぽつりと呟く。
「ジル。カインは一緒じゃないのか?」
「何で」
ジェラルドは、不機嫌そうに眉をひそめた。
「あんな腹黒司祭と四六時中、一緒にいたら胃に穴が開くっつの」
明らかに辟易といった態度でも、向かいに座る黒髪の騎士は気にしない。
無表情のまま、白の駒を動かした。
「少し、カインに意見を訊きたかったんだが」
「王宮騎士団長も堕ちたもんだな。司祭様にお伺いを立てる日が来ようとは」
皮肉げに笑い、チェスの駒を掌でもてあそぶ。
勝負は優勢。このままいけば勝てるかもしれない。
そこへ、上機嫌のアレックスが現れる。
「ねー、ジルー。カインは?」
「だから、知らん」
すっぱりと切り捨てるが、アレックスは納得しない。
むっとした表情で頬を膨らませる。
「嫌だね、アンタ。相棒の居場所を教えたくないのはわかるけどさ」
「誰が相棒だ」
どいつもこいつも、何故、自分に尋ねるのだろう。
あの毒舌司祭の居場所なんて見当もつかない。
結局、チェスの勝負は負けた。