婚約者の憂鬱
「最近、騎士たちの士気が低くなっている。これではいざという時、女王陛下をお護りできない」
「どこのバカだよ、それは」
ちょっとした親友の世間話に、ジェラルドは即座に突っ込んだ。
「今やセナンクールの君主であらせられるシルビア女王に、弓引く輩なんているのか? 経済は安定してるし、近隣諸国との外交にもこれといって問題はない。シルビィの政治手腕にケチをつける方こそ、反逆者として拘置されるぞ」
「うわぉ。およそ、女王の婚約者とは思えない発言だねー」
アレックスが茶化すように笑う。
確かに、今の発言が反女王派の耳に入ったら、ただではすまない。
「ちなみに、ラファール。
部下が目に見えて落ち込んだのはいつ頃?」
「今年の春だ」
「春といえば、シルビア女王の婚約が決まった頃か……皆、陛下にフラれた悲しみを引きずってるんだね」
アレックスが目元にハンカチを当て、よよよ……と泣き出す。
ジェラルドは、ますます眉間の皺を深くした。
アレックスの言動は、女王の婚約者である自分への当てつけにしか見えない。