婚約者の憂鬱




 カインは、にんまりと人の悪い笑みを浮かべる。

 本当に厄介事になりそうで怖い。
 ジェラルドは親友と顔を見合わせた。



(……ジル。アニスちゃんの名前、出したっけ?)

(同族だから、わかるんじゃねぇの?)



 予想はしていたが、これではいつものように協力させるのは難しい。

 どういうわけか、カインとアニスは破滅的なまでに仲が悪い。
 王宮内で、それを知らぬ者はいないほどだ。



 溜め息をついてジェラルドは頭を掻く。

「おまえがあれを嫌っているのは知ってる。だが、そりゃシルビィからの命令なんだと」

「女王陛下からの?」



 カインが目を瞠った。



 レオ宮にある東側の塔には、不吉な噂がある。

 誰もが寝静まる深夜。
 塔の最上階で、『何故だ。何故だ』と、尋ねる男の声が耳に届く。

 正体を確かめようとしても、石造りの壁に声が反響して位置を特定できない。
 やがて、すすり泣く男の声が頭から離れなくなるという。

 それだけなら、どこにでもある城の怪談話で終わる。




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