婚約者の憂鬱




 しかし、今年の春から耳にした侍従や侍女が爆発的に増えた。
 何人もの男の叫び声を聞いた騎士もいたらしい。

 これといって実害はないが、正体がわからないだけに侍女たちの精神的なダメージは大きかった。
 中には、辞職することを本気で考える娘まで現れる。

 そこで、シルビア女王がことの真相を確認しようと思い立ち、アニスを差し向けたという話だった。



「それで、惚れた弱みでホイホイ引き受けてきちゃったんですか」

「いや……そうでもない」

 あくまで書物からは目を離さずに問う司祭に、ジェラルドも否定する。
 若干、その目は泳いでいたが。

 どうでもいいことだが。
 さきほどから会話に混ざってこないアレックスは、たまたま通りかかった侍女ふたりに声をかけていた。



「俺だって幽霊退治なんて、範疇外だっつの」

 はじめは、ジェラルドも渋った。
 一応、王宮騎士団に身を置いている。
 政治犯や盗賊の拘束ならまだしも、正体不明の幽霊は勝手が違う気がしたからだ。




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