婚約者の憂鬱




 すると、アニスが攻め方を変えた。




『どうせ、暇なくせに』




 ジェラルドはむっとなる。

 彼は、王宮騎士団第三分隊の隊長をアレックスに譲った。
 近々、正式に除隊することも決まっている。

 要するに、仕事の引き継ぎをする以外やることはほどんどない。

 アニスは『それに』とつけ加えた。



『これは、女王陛下より直々のご下命です。婚約者のあなたが無視できるのならば、お好きにどうぞ』



 何もかも見透かしたように、妖艶に笑った。



「……とどのつまり、元部下に押しきられちゃった訳ですか。人間、偉くなりたくないもんですね。複雑すぎるしがらみから逃げられません」



 一度も顔をあげず、カインが鼻で笑う。

 結局、長いものに巻かれたというか惚れた弱みというか、断れなかったのは確かである。
 ジェラルドは反論する言葉がなかった。



 不意に入り口付近から、娘たちの歓声が聞こえてくる。
 アレックスが侍女たちと話が盛り上がったらしい。
 青年司書に、恨めしげな目つきで睨まれていた。






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