婚約者の憂鬱
燭台の微かな明かりで、夜の闇に溶け込むようだった。
正直、かなり雰囲気が出ていて怖い。
そのカインが手にしているのは、アニスから預かった報告書だ。
彼女が、幽霊の声を聞いた人の証言をまとめたものらしい。
仕事を頼むついでに、押しつけてきたのだ。
アレックスといいアニスといい、自分の周りはちゃっかりした人間が多いなとジェラルドは思った。
「まだ詳しいことは不明ですが、ひとつはっきりしていることがあります。おそらく、これは幽霊の仕業ではありません」
「は?」
カインの突飛な発言に、ジェラルドとアレックスはぽかんと口を開けるしかなかった。
「そろそろ時間ですね」
眺めていた懐中時計をしまいながら、カインが呟く。
「何が」
「僕が何のためにここにいると思ってるんですか。そろそろ、男の泣き声が聞こえる時間帯です」
ジェラルドが眉をひそめれば、ぴしゃりと資料で鼻先を叩かれる。
渡された証言の報告書は、アニスが書いたものらしい。
男らしい豪快な文字で、泣き声が聞こえる状況や時間帯、東の塔にまつわる噂などを詳細に記してあった。