婚約者の憂鬱




 燭台の微かな明かりで、夜の闇に溶け込むようだった。
 正直、かなり雰囲気が出ていて怖い。

 そのカインが手にしているのは、アニスから預かった報告書だ。
 彼女が、幽霊の声を聞いた人の証言をまとめたものらしい。

 仕事を頼むついでに、押しつけてきたのだ。

 アレックスといいアニスといい、自分の周りはちゃっかりした人間が多いなとジェラルドは思った。


「まだ詳しいことは不明ですが、ひとつはっきりしていることがあります。おそらく、これは幽霊の仕業ではありません」

「は?」

 カインの突飛な発言に、ジェラルドとアレックスはぽかんと口を開けるしかなかった。


「そろそろ時間ですね」

 眺めていた懐中時計をしまいながら、カインが呟く。

「何が」

「僕が何のためにここにいると思ってるんですか。そろそろ、男の泣き声が聞こえる時間帯です」

 ジェラルドが眉をひそめれば、ぴしゃりと資料で鼻先を叩かれる。

 渡された証言の報告書は、アニスが書いたものらしい。
 男らしい豪快な文字で、泣き声が聞こえる状況や時間帯、東の塔にまつわる噂などを詳細に記してあった。




< 27 / 50 >

この作品をシェア

pagetop