婚約者の憂鬱




 とどのつまり、元から幽霊話が成立する要素は可能性としては低かった。



「ユベール卿から話を聞ければ、もっと早く断定できたんですが」

「普通、思うかよ。モテない男が、夜な夜な愚痴り大会開いてたなんてよ」


 男たちの泣き声は、もちろん幽霊ではない。

 きっかけはシルビア女王の婚約だった。

 もともと、騎士団は男所帯の組織である。異性との交流も少ない。
 国一番の祝い事も、彼らにとっては虚しいニュースに違いなかった。

 そこで同じ境遇の者同士、毎晩、あの場所で語り合っていたのだという。

 アレックスの意見もあながち間違っていなかったらしく、馬鹿馬鹿しいと言うよりない。



「でも、これで一件落着?」

 アレックスが笑って、少し離れた人垣を見る。
 我先にと手紙を渡そうとする青年騎士たちに囲まれたアニスが、うんざりした顔をしていた。

 カインが微かに鼻で笑う。



「ざまぁみろって感じですね。結局、自分で仕事を増やしただけっていう」

「おまえ、発言が黒すぎんそ」




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