婚約者の憂鬱
「うあちゃあッ!」
アレックスの悲鳴と共に、あっという間に手紙は燃えてしまう。
鳶色の瞳を丸くさせ、アレックスは手を擦る。
「いきなり、何すんのさ……」
「失礼。手が滑りました」
しれっと涼しい顔で詫び、反省の色は全く見られない。
ジェラルドは横目で何してるんだと冷ややかに見つめていると、向こうからアニスの怒鳴り声が聞こえた。
「ちょっと、誰よこれ! 宛名も差出人もないじゃない!」
……あそこにも、もうひとり物好きがいるようだ。
『白銀の乙女』は、今日も女王への忠誠を胸に職務を果たしている――――か、どうかは怪しい。