婚約者の憂鬱






 砂埃の舞う石造りの神殿。
 薄暗い視界の中、ジェラルドはじっと前を見据えた。



「あ、なんか踏んじゃった」



 前を歩くアレックスの背中が、ふっと消える。



「おい、アレク!」

 名前を呼んだ瞬間、カチリと小さな音が耳に届く。

 その瞬間、ぞくりと背筋に悪寒が走る。
 とっさに剣の柄を掴めば、眼前から銀色の光が飛び込んできた。


「いッ!?」

 ジェラルドが目を見開いたまま、剣を振るうと硬い金属音が響き渡る。

 横薙ぎに払うと、石の床にパラパラと落ちるのは無数の矢。


 嫌な汗が一筋、頬を流れた。一歩間違えば、串刺しになっていたかもしれない。


 全身の肌が粟立つ。
 茫然と立ち竦んでいると、軽快な拍手が聞こえてくる。



「ジル、すごい! さすがはセナンクール一の剣の使い手だね!」

「……てめぇ、わざと避けただろ」


 場違いな歓声をあげるアレックスは、石畳に這いつくばっていた。
 ついでに背後から、眉をひそめたカインが現れる。



「さっきからふたりで何やってんですか。ちっとも前に進んでませんけど」

 後ろを歩くおまえが言うな、とジェラルドは思った。






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