婚約者の憂鬱
王都エルネストの南外れにある小さな教会。
「召喚獣?」
ジェラルドが頬杖をついて訊き返す。
「うん。村外れに古い神殿跡があるでしょう?」
目の前には、もじもじと視線を伏せる六歳くらい少女がいる。
名前は、キャロル。
街の巡回や奉仕活動などで、顔見知りになった少女だった。
「そこから人の気配がするの。今までなかったのに……」
彼女が言うには、村の外れにある神殿跡は子供たちの遊び場だった。
それが、ここ二週間で人が出入りしている形跡がある。
焚き火や寝食した跡。
それも複数だとキャロルは言う。
「みんな、『中に召喚獣がいるのかも』って。誰かが、眠ってる召喚獣を起こそうとしてると思うの」
「まぁ、あれはセナンクール建国以前の代物らしいからな」
腕を組んで相槌を打った。
召喚獣とは、大昔に存在していたとされる魔術師が異界より呼び出した悪魔や神のことだ。
子供に聞かせるおとぎ話の類いである。
無論、実在する訳がない。