婚約者の憂鬱






 通路のあちこちには、食べかすや酒瓶などが落ちている。
 子供たちが侵入者に良い印象を持たない理由がわかった気がした。

 ジェラルドが夕陽の差し込む天井を見あげる。

「もう日暮れか。まずいな。これ以上の探索はできなくなるぞ」

「全く。カインがちんたらしてるから……」

 珍しくアレックスが唇を尖らせて、黒髪の司祭を見る。
 彼の不満も、もっともなことだった。

 カインは何故か探索に出る直前、村で王宮に連絡を取っていた。
 何も準備していない今の段階では、夜になれば探索が難しくなるというのに。



「ここより東の最果て……海に囲まれた島国には、こんな言葉があります」

 前を歩くカインは、悪びれもせずに口を開いた。
 ちなみに彼が先頭を歩いているのは、カイン自身がかって出たことである。

 おかげで、さっぱり進まなかった歩調がすいすいと進む。



「備えあれば憂いなし。意味は、常日頃から準備を怠らなければ、不測の事態にも対応できるという大切な教えです」



「ほう」



 ジェラルドが片眉をつり上げた。
 つまりは何が言いたいと尋ねる。




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