婚約者の憂鬱






「昨夜、ラファールの屋敷に行って、ロートレックで飲み直したことまでは覚えてるんだが……」

「そこからの記憶はないと?」

 尻すぼみになるジェラルドの話をカインが継ぐ。
 そのあとで、どうしようもないといった長い溜め息をつかれた。

 ロートレックは王都の外れにある歓楽街だ。娼館が立ち並び、治安も悪い。
 カインが呆れるのも無理はなかった。


「手元にないから、盗まれたのはその時だろうと? 厄介なことをしでかしましたね」

 口ではそういうものの、黒衣の司祭は目の前で足を組み直す。まるきり他人事といった態度だ。

 ジェラルドが相談する相手を間違えたと思いはじめた時、不意に肩を叩かれる。

 犯人は、アレックスだった。何故か、にやけるように笑っている。


「記憶がなくなるほど飲み歩くなんて、いつかはやるんじゃないかと思ってたけど……いいんじゃない? オレ、そんなあんたが大好きさ」


「おまえも一緒にいただろうが!」


 明らかに面白がってる悪友の胸ぐらを掴み、ガクガクと揺らす。




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