婚約者の憂鬱




「要するに、大の男がふたりして呑んだくれてた訳ですね。しかも記憶がブッ飛ぶほど」

 ぴしゃりとした声音に、ジェラルドがぴたりと動きを止める。
 恐る恐る後ろを振り向けば、カインの瞳が冷徹な光を帯びていた。


「これが、酒で失敗する典型的な例ってヤツですかね。おふたりとも、恥かく前に騎士の称号を返上したらいかがです?」

 からかう口調ではあるが、目は笑っていない。
 カインの辛辣な言葉に、ジェラルドたちは反論できなかった。


「それで、女王陛下への申し開きは考えました?」

 司祭の素朴な疑問に、ジェラルドの肩がビクリと跳ねた。



 彼は、シルビア女王と婚約している。
 記憶がなくなるまで娼館を飲み歩き、義父となる先代国王から賜った剣を紛失したとなれば、婚約者として不適切と言わざるを得ない。



「今度こそ、婚約破棄されたりして……」

 想像した未来に、ジェラルドの顔からサッと血の気が引いていく。

 いや、婚約破棄ならまだいい。女王の裁量によっては、家にまで咎めがおよぶかもしれない。




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