婚約者の憂鬱






 ところ変わって、北宮殿の兵舎。
 ジェラルドの前には一枚の紙とペンが置かれている。



「これでどうしろと?」

 場所を移動し、無理やり椅子に座らされたジェラルドが、怪訝そうに眉をひそめた。

「覚えている範囲で構いません。昨夜、ユベール卿の屋敷からロートレックで飲み歩いた間、出会った人物を書き出してください」

 眼前には、腕組みした黒衣の司祭が傲然と見下ろしてくる。

『紅灼竜の牙』を探すにあたって、昨晩のジェラルドの行動から探ることにしたらしい。

 そこへ、アレックスが背後から割り込できた。

「無理だよー。この男ときたら、いい感じに酔っ払って娼婦も見習いの娘も誰かれ構わず誘って遊び歩いたんだから」

 もともと冷たいカインの視線が、ますます鋭くなっていく。
 ジェラルドは蛇に睨まれた蛙の気分だった。

 この腹黒毒舌司祭。賭け事には異様な執念を燃やして勝ちを取りにいくが、本来の根は真面目な男である。女王陛下の側近として、彼女の名を汚すような真似は(基本的には)しない。




< 8 / 50 >

この作品をシェア

pagetop