クリスマス爆発しろ
はぁ…
「いや、ダメダメ。気持ち切り替えなきゃ。うん!
よしいくぞ、ウメスケっ」
私は手元の鈴を持ち、シャンと鳴らした。
その音に応えるように、トナカイのウメスケは、私の乗るソリを引っ張り空へ飛んだ。
クリスマス、真夜中、深夜2時。
ホワイトクリスマスではないけれど、
月が優しく街を照らす静かな夜。
さあここからが本番だ。
子供たちが寝静まり、そしてまた目を覚ますまでの短い時間に、ソリいっぱいに積んだプレゼントを配り終わらないと。
私は運転をウメスケに任せ、一軒目のプレゼントを取り出した。
すぐに見えてきた最初の家、ウメスケはブレーキをかける事なく目当ての部屋に突っ込んでいく!
しゅんっ
瞬間私たちの体は家の壁にとけ、
数秒もたたない内に反対側の壁から抜け出ていた。
「よし、一軒目おわりっ!
ウメスケ、次三丁目の桜井さんね!」
ぶるるっといななくように答えると、
彼は進路を東に変えた。
サンタクロースが一軒一軒煙突から入ってたのは外国の話。
窓から入るのはサンタを知らない大人の想像。
実際は今みたいに壁をすり抜けプレゼントをぽんと置いていく。
5秒以内に終わらせるのがプロだ。
なるべく部屋を見回さず、プライバシーを大切にする。というか不法侵入ギリギリアウトだから長居できない。
ちなみに壁をすり抜ける技の詳細は企業秘密。
もっと丁寧に配れたら、とはいつも思うけど、私の担当だけでも子供の数は軽く一万を越える。悠長なことは言ってられない。
まあ、パパやママは倍以上やってるんだけど。
パパの意向で私の配達先は小学生以下限定なのだ。
なんか、もし偶然配達先の子が起きててサンタルックのキュートな娘を見られたら俺は何をしでかすかわからないとか訳のわからないことを言っていた。
その思考が既にきもちわるい。
キュートとか死語だから。
大体サンタは姿を見られたらプロ失格だ。
「えっと次は山下翔くん……」
名前を口にしてハッとする。
あれ、これ透くんの弟の名前じゃない……?
そういえば、この辺りだ。
透くんの家。
何回か来たことのある、見馴れた路地。
夜だから大分雰囲気は違うけど…
次が透くんの家とわかった途端、
寒空に同化していた頬の体温が戻ってくる。
心臓がドキドキ言い出す。
「だっ…だめ。今は仕事なんだから。私プロのサンタなんだから。プロフェッショナルに仕事しないと。うん。
ウメスケ、次のおうち、ちょっと外で待ってて」
……
トナカイのくせにこっちを見るウメスケの視線が痛い。
ちょっとだから。
ちょっとだけ。
透くんの家に着くと、私は翔くんの枕元にプレゼントを置き、透くんの部屋へと滑り込んだ。
どうしようこれ完全にサンタの域を越えた不法侵入だよ…
でっでも
会いたかったんだもん。
聖なる夜に、会いたかったんだもん。
私はつくづくワガママで、ダメなやつだ。
好きなら何をしてもいいじゃないって、
ちょっと思ってしまってる。
透くんはすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
…ああ、なんか、もう、満足。
聖夜に顔が見れただけでも私は嬉しい。
ウメスケが待つ外へ引き返そうと思ったその時だった。
ふいに彼の机の上に目が止まった。
それは1枚のクリスマスカード。子供たちが欲しいプレゼントを、サンタが知るためのカードだ。月明かりに照らされて、彼の丁寧に書いたであろう文面が、はっきり読めた。
「これ……」
一字一字が私の心の奥まで潜り、静かに留まる。同時に心に溜まっていた、涙が居場所をなくして溢れてくる。
ありがとう。
私を想ってくれて。
それだけで幸せだ。
「あなたの望んでくれたプレゼント、ちゃんと受け取ったよ」
枕元で小さく呟く。
「好きだよ。これからも、ずっと一緒にいてね」
12月25日。クリスマス。
聖なる夜は、鈴の音と共に更けていく。
………………
「おにいちゃ~ん!!」
山下家の朝。
元気な声が家中に響き渡った。
「おーどうした翔、サンタでも来たか」
「うん!見て!ほしかったやつ!!」
そう言うと翔はおもちゃのロボットを
キラキラした笑顔で俺の前に見せてくれた。
「まっ…まじでか!毎年思うけど、サンタってマジでいるのな~」
「わーい!!」
喜びが止まらないのか、翔は親父やお袋に見せようと、階段を急ぎ足で降りていった。
「ふむ…。じゃ、俺の欲しいものも、手に入るかな?」
机の上に手を伸ばし、自分で書いたクリスマスカードに目をやった。
『ほのかに素敵なクリスマスを』
「……はっず」
誰も見てないのに何だか恥ずかしくなり、
俺は引き出しにカードをしまった。
「あっ、大丈夫だよな。ちゃんと持ったよな」
今度は学校のカバンに手を伸ばし、彼女宛の
プレゼントがちゃんと入っているか確認する。
…まあ、昨日も3回位見たけど。
「よし起きるか~」
階段を下りていく。
ふと思った。
気のせいだろうか。
机の上のクリスマスカードの文章は、
なんだか少しにじんでいた気がした。
「いや、ダメダメ。気持ち切り替えなきゃ。うん!
よしいくぞ、ウメスケっ」
私は手元の鈴を持ち、シャンと鳴らした。
その音に応えるように、トナカイのウメスケは、私の乗るソリを引っ張り空へ飛んだ。
クリスマス、真夜中、深夜2時。
ホワイトクリスマスではないけれど、
月が優しく街を照らす静かな夜。
さあここからが本番だ。
子供たちが寝静まり、そしてまた目を覚ますまでの短い時間に、ソリいっぱいに積んだプレゼントを配り終わらないと。
私は運転をウメスケに任せ、一軒目のプレゼントを取り出した。
すぐに見えてきた最初の家、ウメスケはブレーキをかける事なく目当ての部屋に突っ込んでいく!
しゅんっ
瞬間私たちの体は家の壁にとけ、
数秒もたたない内に反対側の壁から抜け出ていた。
「よし、一軒目おわりっ!
ウメスケ、次三丁目の桜井さんね!」
ぶるるっといななくように答えると、
彼は進路を東に変えた。
サンタクロースが一軒一軒煙突から入ってたのは外国の話。
窓から入るのはサンタを知らない大人の想像。
実際は今みたいに壁をすり抜けプレゼントをぽんと置いていく。
5秒以内に終わらせるのがプロだ。
なるべく部屋を見回さず、プライバシーを大切にする。というか不法侵入ギリギリアウトだから長居できない。
ちなみに壁をすり抜ける技の詳細は企業秘密。
もっと丁寧に配れたら、とはいつも思うけど、私の担当だけでも子供の数は軽く一万を越える。悠長なことは言ってられない。
まあ、パパやママは倍以上やってるんだけど。
パパの意向で私の配達先は小学生以下限定なのだ。
なんか、もし偶然配達先の子が起きててサンタルックのキュートな娘を見られたら俺は何をしでかすかわからないとか訳のわからないことを言っていた。
その思考が既にきもちわるい。
キュートとか死語だから。
大体サンタは姿を見られたらプロ失格だ。
「えっと次は山下翔くん……」
名前を口にしてハッとする。
あれ、これ透くんの弟の名前じゃない……?
そういえば、この辺りだ。
透くんの家。
何回か来たことのある、見馴れた路地。
夜だから大分雰囲気は違うけど…
次が透くんの家とわかった途端、
寒空に同化していた頬の体温が戻ってくる。
心臓がドキドキ言い出す。
「だっ…だめ。今は仕事なんだから。私プロのサンタなんだから。プロフェッショナルに仕事しないと。うん。
ウメスケ、次のおうち、ちょっと外で待ってて」
……
トナカイのくせにこっちを見るウメスケの視線が痛い。
ちょっとだから。
ちょっとだけ。
透くんの家に着くと、私は翔くんの枕元にプレゼントを置き、透くんの部屋へと滑り込んだ。
どうしようこれ完全にサンタの域を越えた不法侵入だよ…
でっでも
会いたかったんだもん。
聖なる夜に、会いたかったんだもん。
私はつくづくワガママで、ダメなやつだ。
好きなら何をしてもいいじゃないって、
ちょっと思ってしまってる。
透くんはすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
…ああ、なんか、もう、満足。
聖夜に顔が見れただけでも私は嬉しい。
ウメスケが待つ外へ引き返そうと思ったその時だった。
ふいに彼の机の上に目が止まった。
それは1枚のクリスマスカード。子供たちが欲しいプレゼントを、サンタが知るためのカードだ。月明かりに照らされて、彼の丁寧に書いたであろう文面が、はっきり読めた。
「これ……」
一字一字が私の心の奥まで潜り、静かに留まる。同時に心に溜まっていた、涙が居場所をなくして溢れてくる。
ありがとう。
私を想ってくれて。
それだけで幸せだ。
「あなたの望んでくれたプレゼント、ちゃんと受け取ったよ」
枕元で小さく呟く。
「好きだよ。これからも、ずっと一緒にいてね」
12月25日。クリスマス。
聖なる夜は、鈴の音と共に更けていく。
………………
「おにいちゃ~ん!!」
山下家の朝。
元気な声が家中に響き渡った。
「おーどうした翔、サンタでも来たか」
「うん!見て!ほしかったやつ!!」
そう言うと翔はおもちゃのロボットを
キラキラした笑顔で俺の前に見せてくれた。
「まっ…まじでか!毎年思うけど、サンタってマジでいるのな~」
「わーい!!」
喜びが止まらないのか、翔は親父やお袋に見せようと、階段を急ぎ足で降りていった。
「ふむ…。じゃ、俺の欲しいものも、手に入るかな?」
机の上に手を伸ばし、自分で書いたクリスマスカードに目をやった。
『ほのかに素敵なクリスマスを』
「……はっず」
誰も見てないのに何だか恥ずかしくなり、
俺は引き出しにカードをしまった。
「あっ、大丈夫だよな。ちゃんと持ったよな」
今度は学校のカバンに手を伸ばし、彼女宛の
プレゼントがちゃんと入っているか確認する。
…まあ、昨日も3回位見たけど。
「よし起きるか~」
階段を下りていく。
ふと思った。
気のせいだろうか。
机の上のクリスマスカードの文章は、
なんだか少しにじんでいた気がした。