音の生まれる場所
(どうしよう…)

チケットを前にして迷う。
この楽団のことはよく知っている。
かつてのブラス仲間が入っていて、毎年、この時期にコンサートをすることは聞いてたし、実際、何度か誘われたこともある。
でも、ずっと避けてきた。
ブラスは…
楽器は…
朔との思い出に直接繋がってるから…。


仲間と会うことは悪くない。久しぶりに会って、顔を見て話もしたい。
けれど…音を聞くのが怖い。
朔の亡くなったあの日を思い出してしまいそうで、怖くて仕方ない……。


いろいろと悩んだ挙句、ブラス仲間だった友人の一人、吉川夏芽に電話した。

「ナツ、一緒に行ってくれない?」

急な誘いにも関わらず、夏芽は断りもしなかった。

「いいよ…でも、真由はホントに大丈夫なの?」

この七年間、私がブラスとは全く関係のない生活を送っているのを夏芽は知っていた。その上で心配された。

「私…部署で一人だけ誌面作りに関わってないから、取材先と編集部を繋ぐ窓口業務の一環だと思って行くよ…」

いざとなったら差し入れだけ置いて帰ればいい…そう考えていた。
でも実際、それができなくなったのには理由がある……。


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