音の生まれる場所
「これから毎日練習して、息を吹き込んだらいい。楽器のくすみは手入れの仕方一つで、幾らでも良くなるから」
ニコニコしながら教えてくれる。
それに気を良くしていたら、坂本さん達から催促があった。
「小沢さん、もう一度スケールの練習してみて下さい」
「僕ももう一回聞きたいな」
恥ずかしくなるようなことを言う。スケールすらも吹けない私に何のプレッシャーを与えてるんだ。
「私のフルートなんか聞いても時間のムダです」
確実に出せる音と言ったら半分くらい。それらも合ってるかどうか分からない。
「そんな事ないですよ。今、先生も言ったでしょ。息を吹き込んでって」
「小沢さんが早く上達したかったら、ここで坂本さんや水野さんに習うのが手っ取り早いと思うけどな…」
それぞれ言いたいことを言う。
でも、ここなら防音設備が整ってるから、下手くそな音を周囲にまき散らさずに済むのは確か。
「一回だけですよ」
観念してフルートを構える。腹式呼吸の基本。鼻から吸って口から出す。おへその辺り、空気を溜めるのを意識して…
(ド…レ…ミ…ファ…ソ…)
「はぁー…」
大きく息を吐く。勿論口呼吸。
「苦しかった…」
「今のなかなか良かったですよ」
「うん、さっきより大きな音が出てた」
坂本さんだけでなく三浦さんまで褒めてくれる。なんだかちょっと恥ずかしい。
「今の調子で腹式呼吸をマスターしたら、すぐに曲が吹けるようになりますよ。吹けるようになったら是非聞かせて下さい」
「えっ…」
戸惑うような坂本さんのセリフ。なんと言って答えたら良いやら…。
「理、彼女は仕事のついでにここへ来てるんだぞ」
水野さんの声に顔が引きつる。今日は完全に私用だから。
「いや僕は、早く彼女に上手くなってもらいたいので…」
この間言っていた楽団に入らないかという話。まさか本気で言った⁉︎
「お前の楽器バカは承知してるが、小沢さんにもペースがあるんだ。焦らせちゃいかん」
さすがと言うか、水野さんはホントに先生と言われるに相応しい感じ。坂本さんがむくれた。
「会う口実に使いたいのは分かるけどな」
不意な言葉。
「えっ⁉︎」
「いや、僕は別にそんなつもりでは…」
私の驚きと坂本さんの言い訳が被る。お互い目を見合わせて慌てて逸らした。
「僕は単純に小沢さんのフルートが聞いてみたかっただけです。変なふうに取らないで下さい!」
照れ隠しみたいに坂本さんが言う。水野さんだけでなく、三浦さんまで笑ってる。
(そんなの言わないでよ…来にくくなるじゃない…)
私の事などお構いなしに坂本さんと水野さんは喋っている。師匠と弟子と言うよりまるで親子みたい。
(信頼してるんだな…坂本さん、水野さんのこと…)
この間ここへ来た時、楽器作りを説明してもらいながら同じことを思った。
「いい楽器を作る為にここで働いてるんじゃないんです。いい楽器を作る人がいるから働いてるんです」
目を輝かして言っていた。
坂本さんの目指しているのは自分の納得がいく楽器を作ることかもしれないけど、同時にいい楽器を作れる職人にもなりたいんだなって、しみじみ感じた。
(いいな…尊敬できる人の元で働けるって…)
朔が生きていたら、きっと坂本さんみたいな仕事をしてたかもしれない。
よく似てる人を重ね合わせて、どことなく気持ちが穏やかになった…。
ニコニコしながら教えてくれる。
それに気を良くしていたら、坂本さん達から催促があった。
「小沢さん、もう一度スケールの練習してみて下さい」
「僕ももう一回聞きたいな」
恥ずかしくなるようなことを言う。スケールすらも吹けない私に何のプレッシャーを与えてるんだ。
「私のフルートなんか聞いても時間のムダです」
確実に出せる音と言ったら半分くらい。それらも合ってるかどうか分からない。
「そんな事ないですよ。今、先生も言ったでしょ。息を吹き込んでって」
「小沢さんが早く上達したかったら、ここで坂本さんや水野さんに習うのが手っ取り早いと思うけどな…」
それぞれ言いたいことを言う。
でも、ここなら防音設備が整ってるから、下手くそな音を周囲にまき散らさずに済むのは確か。
「一回だけですよ」
観念してフルートを構える。腹式呼吸の基本。鼻から吸って口から出す。おへその辺り、空気を溜めるのを意識して…
(ド…レ…ミ…ファ…ソ…)
「はぁー…」
大きく息を吐く。勿論口呼吸。
「苦しかった…」
「今のなかなか良かったですよ」
「うん、さっきより大きな音が出てた」
坂本さんだけでなく三浦さんまで褒めてくれる。なんだかちょっと恥ずかしい。
「今の調子で腹式呼吸をマスターしたら、すぐに曲が吹けるようになりますよ。吹けるようになったら是非聞かせて下さい」
「えっ…」
戸惑うような坂本さんのセリフ。なんと言って答えたら良いやら…。
「理、彼女は仕事のついでにここへ来てるんだぞ」
水野さんの声に顔が引きつる。今日は完全に私用だから。
「いや僕は、早く彼女に上手くなってもらいたいので…」
この間言っていた楽団に入らないかという話。まさか本気で言った⁉︎
「お前の楽器バカは承知してるが、小沢さんにもペースがあるんだ。焦らせちゃいかん」
さすがと言うか、水野さんはホントに先生と言われるに相応しい感じ。坂本さんがむくれた。
「会う口実に使いたいのは分かるけどな」
不意な言葉。
「えっ⁉︎」
「いや、僕は別にそんなつもりでは…」
私の驚きと坂本さんの言い訳が被る。お互い目を見合わせて慌てて逸らした。
「僕は単純に小沢さんのフルートが聞いてみたかっただけです。変なふうに取らないで下さい!」
照れ隠しみたいに坂本さんが言う。水野さんだけでなく、三浦さんまで笑ってる。
(そんなの言わないでよ…来にくくなるじゃない…)
私の事などお構いなしに坂本さんと水野さんは喋っている。師匠と弟子と言うよりまるで親子みたい。
(信頼してるんだな…坂本さん、水野さんのこと…)
この間ここへ来た時、楽器作りを説明してもらいながら同じことを思った。
「いい楽器を作る為にここで働いてるんじゃないんです。いい楽器を作る人がいるから働いてるんです」
目を輝かして言っていた。
坂本さんの目指しているのは自分の納得がいく楽器を作ることかもしれないけど、同時にいい楽器を作れる職人にもなりたいんだなって、しみじみ感じた。
(いいな…尊敬できる人の元で働けるって…)
朔が生きていたら、きっと坂本さんみたいな仕事をしてたかもしれない。
よく似てる人を重ね合わせて、どことなく気持ちが穏やかになった…。