音の生まれる場所
中三の卒業式の後、バラバラになる五人で写真を撮った。
朔の隣に立つのが恥ずかしくて、わざと近寄らないでいたら腕を引っ張られた。

「お前はここ!」

三年の間に少しだけ近づいた顔の距離。
大きく胸が震えて、ドキン!と鳴った。
高校も同じ所に行けて、ホントに嬉しかった……。


曲を聞きながら三人ともそれぞれ考え事していたみたい。お音が止んで、しんみりした声でシンヤが言った。

「良かったよね…あの頃は…」
「うん…良かった…」
「ガキだったな…オレ達皆…朔も含めて」

一番子供で一番楽しかった頃。朔も元気で、飛び回っていた。

「真由のフルートは思い出が詰まってる感じで良かったぞ」

ハルがいつになく褒めた。

「優しい音だった。昔より深みも増した気がする」
「いろいろ経験したもんね!当たり前だよね⁉︎ 」

シンヤの言葉に夏芽が当然とばかりに言う。確かにいろんな事を経験したけど…。

「朔のこと、いろいろ考えて吹いたからだと思う…」

私がフルートを再開したのは、あの曲を朔に贈る為。だからどうしても想いが募る。
三人の表情が曇る。これ以上、しんみりしたくない。

「私ね、もっと上手になって、あの曲を朔に吹いてあげようと思ってるの」

明るく話す。曇っていた三人の目がこっちを向いた。

「あの曲ってあれか⁈ 」

ハルの声に頷く。するとシンヤと夏芽が顔を見合わせた。

「今吹けないの⁉︎ 」」

夏芽の言葉にシンヤもこっちを見る。

「今はまだ、自信ない…って言うか、もう少し先で吹きたい…」
「先っていつ⁈ 」

シンヤの質問に他の二人の視線が重なる。

「朔の命日。それまでにたくさん練習して、一番ベストな状態で吹きたいの」

それで朔とサヨナラする。それは皆には内緒だけど…。

「そしたらまだ五ヶ月も後じゃねーか」
「そんなの困るよ」

ハルとシンヤが困惑する。

「なんであんた達が困るのよ」

夏芽がねぇ⁈ …とこっちを向く。

「だってオレら、もっさんに頼まれたんだよ」
「真由子を楽団に入るよう誘えって」
「えっ…」

ビックリするような発言。目が点になった。

「もっさんって、あの春の公演でトランペット吹いてたイケメンの人⁈ 真由と関係あるの⁈ 」

夏芽がこっちを振り返る。

「な、何もないよ!勤めてる工房で社長さんに楽器見てもらっただけ!」
「でも、もっさん、えらく真由のこと気に入ってたぞ!お前なんかしたんじゃねーか⁈ 」
「な…何もしてないよ!ちょっと朔のこと話しただけよ!」
「分かった!その時泣いたんだ、また!」
「な、泣かないよ!そんな何度も…!」

確かに朔が亡くなって、寂しい気持ちは今もあるけど。

「坂本さんのペットの音が、朔の声に聞こえたって言っただけ」

大事なことに気づかせてもらった。そのお礼を言った。

「もっさんの音か…。確かに声みたいに感じるからな…」
「嬉しかったのかな、よっぽど」
「朔と同じペッター…。真由と縁あるのかな」

夏芽の言葉に気恥ずかしくなる。そんな事を言われる程、坂本さんには会ってもいない。

「ただの偶然だって!縁なんかなし!」

笑ってやり過ごす。
今はそれよりも先にやらなくちゃいけないことが待っている。
それが終わるまでは、何も始めたくない…。

「つまんねーけど仕方ないか」
「もっさんには無理って言っとこ」

ハルとシンヤも理解してくれる。
楽団に入ってたくさんの人に演奏を聞かせるなんて目指してないから、ホントは多いに困るけど…。

「ごめん。よく謝っといて」

朔と同じトランペッターの人。あの音色には確かに惹かれるものがある…。

でも、まずは思い出が先。
手放す前に、ぎゅっと握りしめておきたい。
七年分の想いを、彼に伝えたいからーーー。

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