音の生まれる場所
(どういうのこれ?)

練習に参加しだして一ヶ月くらい経った頃、私は張り合うような音の中にいた。
張り合っているのは主に二人。
木管楽器の代表的存在、ファーストクラリネット奏者の宇崎さんと金管楽器の王様的存在、ファーストトランペッターの坂本さん。
どちらも音を張り上げて、これでもかって感じの演奏をしてる。
心地よい音楽とは真逆の響き。まるでケンカしているみたい。

(うるさい…)

耳を押さえたくなってくる。こうなると騒音にも近い。

「今日、どっちも引かないわね」

私の隣にいるセカンドフルートの石澤さんが囁いた。

「どっちも…と言うより、やっぱ柳さんよ」

ファーストフルートの峰さんがチラッと隣のパートを見る。
柳さんこと宇崎さんは、真剣な表情で楽譜を演奏していた。

「あの…こんなことって多いんですか?」

数える程しか練習に参加したことない私にとって、今日のような音を聞くのは初めて。かなり驚いた。

「演奏会近づくと大抵いつもこうね」
「なんたって二人とも木管と金管の主役だからね」

当たり前のような言い方。主役だか何だか知らないけど、これで調和が取れるの⁈



「どうなってんの⁉︎ あの二人、なんであんなケンカするような音出すの⁉︎ 」

楽団帰りのひと時を過ごすスタンドBAR。そこで声を大きくした。

「真由子が怒ったって仕方ないだろう」

落ち着き払った態度でシンヤが言った。

「でも、うるさかった!いつからあんななの⁉︎ 」

ピリピリしながら聞いた。

「オレが楽団に入った二年前は、既にああだったな」
「僕が入った四年前も今程じゃなかったけど、競ってる感じはあったよ」

似たようなことをハルシンが言う。そんな感じで、どうやってハーモニーを作ってきたの⁈

「ねぇ、あんな感じでハーモニーって作れるの⁈ 」

夢のようだった春の演奏会を思い出した。

「作れるさ。あの二人メチャクチャ仲良いから!」
「そうそう、よく一緒に飲んだりしてるし」
「えーっ、うそぉ…」

どう聞いても仲悪そうだし…。

「飲みに行くっつても、ほぼ柳さんの奢りだけどな」
「もっさんお金ないからね」

納得し合っている。

「お金ないってどういうこと⁉︎ 」

キチンと働いているのに、お金の遣い方が荒いとか?

「もっさんは先生とこで見習いの職人やってるような感じだろう?当然、給料安い」
「でも楽器作りには金が掛かる」

その安い給料の殆どを、楽器作りにつぎ込んでいるらしい。

「飽きれた…。どうやって生活してるの⁈ 実家暮らし?」
「いや、先生んとこの工房で寝泊まりしてるらしいぜ」
「あそこで⁉︎ 」

心地いいロビーが思い浮かんだ。

「家賃・光熱費は無用。昼はまかないが出て助かる」
「でも、贅沢はムリ!」
「……でしょうね」

不思議な人。
いくら楽器が好きで自分の思う楽器が作りたいからって、そこまでする…?


知れば知る程、朔から遠ざかって行く。
私はどうして坂本さんが朔に似てると思ったんだろう…。
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