音の生まれる場所
(中学からトランペッターだから…?)

そう考えながら歩いていた。
頭の中では練習の時の騒音が鳴り響いてて、今でもずっと耳が痛かった。

「あーうるさい!」

声が出てハッとする。顔を上げると周囲の視線がこっちを向いていた。

(やばっ…)

早足で駅に向かう。ごった返した駅の構内に入ると、練習中の騒音も一旦途切れた。
ホッとして歩き出す。その目の前に、見慣れた二人が通りがかった。

「坂本さん、宇崎さん…」

肩を組み…と言うより坂本さんの肩を借りてる感じの宇崎さん。ぱっと見、かなり酔ってる…⁈

「やぁ、真由ちゃん!」

手を上げて私を呼ぶ。誰だか判別できるなら、見た目程ではないのかも。

「大丈夫ですか?宇崎さん、かなり酔ってますね…」

うな垂れるように坂本さんの肩にもたれてる。

「仕事でストレス溜まってるんだって。練習中でも音が暴れてたろ?」

人のこと言えない坂本さんが言った。

「お前な、人のこと言えねーくらい荒れてただろ⁉︎ 俺ばっかワルもんにすんなっての!」

絡んでる。完全に悪酔いだ。

「見苦しいな…全く」

呆れるように溜め息をつく。仲が良いと言うより仕方なく付き合ってる感じ。

「しっかり歩けよ、リュウ!」

じゃあねと目の前を過ぎて行く二人。その背中を見ながら、今日の練習を思い出していた。

「…待って下さい!」

前に回り込む。キョトンとしている二人の目が、私を不思議そうに見た。

「今日、練習中、音でケンカしてましたよね⁉︎ どうしてそんな事するんですか⁉︎ 音楽で一番大事なのはハーモニーじゃないんですか⁉︎ 」

ほろ酔い気分だったとは言え、本来私が意見できる立場の人達じゃない。当然驚かれた。

「ハーモニーは大切にしているつもりだけど…」

困った顔で坂本さんが答えた。

「そーそー!俺達は別に崩したり壊したりはしてねーぞ!」

野次を飛ばされる。ついムッとした。

「じゃあ今日のあれは何なんですか!完全に騒音でしたよ!」

怒って睨む。唇を尖らせる私に、坂本さんが落ち着いた声で言った。

「小沢さんは楽団のスタイルがまだ理解出来てないようだね」

仕様がないか…って言いたそう。ますます頭にきちゃう。

「俺達はー、音で論議してただけ!」

酔っ払いの宇崎さんが言う。その言葉の意味すら分からない。

「どういうことですか⁈ 」

食い下がる私に坂本さんが溜め息をつく。それを見て宇崎さんが提案した。
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