音の生まれる場所
朔ーー遠藤雄朔(えんどう ゆうさく)と初めて会ったのは中一の春だった。

音楽室のドアの前で、中に入ろうかどうしようか迷っていた私の後ろに彼が立ってた。


「入るなら入れよ。そんな所に突っ立ってないで」

真新しい黒の制服が、同じ中一だと思わせた。


「は、入るわよ!入ればいいんでしょ!」

ごくっ…と唾を呑み込み、ドアノブを捻った。

防音効果のある扉の向こうから、音が一斉に押し寄せて来る。


「ゆうさくっ!」

メガネをかけた先輩が、私に向かって声をかけ、手を振る。


(ゆうさく…?)

誰のことかと首を傾げたら、後ろからそれに応える声がした。


「シロー先輩!」

立っていた男子が横をすり抜けてく。

私と朔の出会いは、そんなワンシーンから始まった…。




「よしっ!じゃあ掘るか!」

ショベルを手にハルが土を砕き始める。
夏草の生えた土は固く、ショベルの刃はなかなか立ってくれない。
中三の夏の日も、今と全く同じだったーーー…

< 5 / 69 >

この作品をシェア

pagetop