音の生まれる場所
「よし、分かった!真由ちゃんも一緒に飲もっ!飲んで語り明かそう!」
「…リュウ!」

坂本さんが慌てて止める。

「何だよ、言いたい事があるならお互い納得がいくまで語り合った方がいいじゃねーか!」

宇崎さんが坂本さんを睨む。その視線を全く無視してこっちを向いた。

「小沢さん帰っていいから。今日のことはそのうち分かるようになるから」

相手などしていられない…そんな感じに思えた。

「いいえ!キチンと話してくれないと理解できません!ご一緒します!」

酔った勢いと言うよりも、むしろ逆上。呆れる坂本さん。でも宇崎さんは喜んだ。

「よし!そう来なくちゃ!」

ドサッと私に覆い被さる。それを直ぐに払い除けられた。

「やめろ、酒癖悪いな」

自分の肩に手を回させる。

「チッ、つまんねーの!真由ちゃん行こうや」
「はい!」

バカみたいに意気がってついて行った。
駅裏の居酒屋で話が着かなくて、近くのリュウさんのアパートで飲み直しする事になって日が変わる頃、ようやく話が理解できた。

「つまり、音を闘わせながら曲を作り上げていたって事ですか⁈ 」
「そう。お互いどんな感じで曲を掴んでいるかを知るには、一番手っ取り早い方法だから」

ビールを飲みながらコンコンと説明してくれる坂本さん。宇崎さんはアパートに着くなり早々と眠り込んでしまった。

「それならそうとハル達も教えてくれたら良かったのに…」

自分たちが入った時からの習慣だからって、当たり前のように感じてたんだろう。
ぶちぶち文句を言う私を見て、坂本さんが笑った。

「入って直ぐの頃は誰でも疑問に思うんだけど、君のように意見してきた人は初めてだよ」

本来なら怒られて当然だけど、笑って済まされた。

「すみません…ホントに生意気なことを言ってしまって…」

酔った勢い。いや、元から少し勝気な性格だったか。

「いいけど、次から騒音みたいに感じてもじっくり聞いといて。演奏を聴きながら、皆も曲を掴むようにしてるから」

今回は多少、音が荒っぽかったかもしれないけど…と、一応反省。大人だな。

(やっぱり朔とは別人…当然か)

トランペッターってだけでどこか似ていると思ったのかもしれない。
自分の勝手な空想が、朔とダブらせたのかもしれない。

(今度から気をつけよう…)

反省しながらちびちび飲むビール。
二人で話したのは初めて。でも、緊張することもなくひたすら話し続けて、気づくといつの間にか眠り込んでいた。

ビールで火照った身体に床の冷たさは心地良かった。でもそれは最初だけ。だんだん寒くなってきて…。

「くしゅんっ!」

クシャミが出たのは覚えている。寒いな…って少し思ったから。
でも、その後で急にあったかくなって、気持ち良くなって、スヤスヤ眠り込んだ。
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