音の生まれる場所
「それだけかー?その割りには二人仲良く寄り添って寝てたよな」
明け方近く、トイレ行こうと起きた際、坂本さんが私を抱えるようにして眠り込んでたのを見たらしい。
(そ…そうだったんだ…どおりであったかだった訳だ…)
後から知る事実は恥ずかしい。困った顔で俯く私の横で、坂本さんは理路整然と事情を説明した。
「バカ!あれは小沢さんがくしゃみをしてたから、風邪引かないように上着掛けてやっただけ。何もしてない」
少し怒った声で言う。変に誤解されても困るみたいだ。
「怪しーな…おっさんは大体、真由ちゃんをここへ入れろと相当ハルシンにハッパかけてたしな」
突つかれて言葉に詰まる。
確かに坂本さんは私を楽団に入れろと相当ハル達に勧めてたし、入るという話を聞いてとても喜んだとも聞かされた。
私と柳さんの視線が彼に集まる。それに戸惑いながら坂本さんは呟いた。
「それは…他に理由があって…」
「へぇー…どんな⁈ 」
意地悪い質問。困ったような表情で私を見た坂本さんは、完全にそっぽを向いて答えた。
「小沢さんのフルートが聞きたかったから…」
初めて見るような恥ずかしそうな顔に唖然とする。
柳さんは一瞬ポカン…として、それから大いに吹き出した。
「ブハッ!お前…どこまで楽器バカなんだよ!」
お腹抱えて苦しそうに笑ってる。
その様子を、苦い顔して坂本さんが見つめてた。
「…真由ちゃん、あのさ…」
可笑しそう笑いながら柳さんが私の方を向く。
「この楽器バカにフルート聞かせてやりなよ。私はこんな人ですって分かるように」
「えっ…」
戸惑うのも気にせず、頼むわと肩を叩く。そして立ち上がった。
「帰る。邪魔しねーように」
さっさと楽器を片付ける。その後ろ姿を見て、戸惑うように坂本さんを振り向いた。
ブスッとした表情で演奏を続けてる。その音がなんだか寂しそう…。
(私が話しかけたから…)
申し訳ないような気がする。完全に二人の練習の邪魔をしてしまった。
「あの、私…」
柳さんが帰ってしまった後、練習室に残っているのは私と坂本さんだけ。
どうすればいいのか分からず、とにかく謝ろうと思って口を開いた。
「気にしなくていいから」
マスピースを離して坂本さんが声を発した。
「えっ⁈ 」
「さっきリュウが言ったこと、気にしなくていいから」
自分がどんな人間か、分かるようにフルートを聞かせてやって…という話。それを完全に拒否られた。
「わざわざ聞かなくても練習の時に音は聞いてるし、それで十分だから」
どことなくトゲのある様な言い方。それなら何故、この楽団に誘ったの…⁈
「……坂本さんは、いつもそうなんですね」
ムッとして声に出してしまった。言わなくていいことを、つい言ってしまう。
「この間も今日も、私なんて関係ないみたいな言い方して。頭にきます。そんな態度!」
相手は年上。しかも楽団の中心人物で、会社のお客様でもあった人。
そんな人に対して、私は、またしても声を荒げてしまった。
「そんな聞かなくてもいいようなら、私なんか誘わなきゃ良かったじゃないですか!」
別にフルートを聞かせられないから…って訳じゃない。
自分がどうでもいいような扱いを受けたことがスゴく歯痒かった。
「バカみたいです…私…間に受けて。…何なんですか、ホント…」
目に涙。勿論、悔しいから。
坂本さんが困った顔する。私がこんなに怒るなんて、きっと思ってなかったはず。
「もういいです!別に聞いて欲しいとも思ってませんし、練習の邪魔もしちゃったから…帰ります!」
投げやりな感じで頭を下げる。すると坂本さんが立ち上がった。
「…待って。一緒に帰るから」
涙ぐむ私を見る。そして小さく溜め息をついた。
「ホントに気が強いね、小沢さんは」
少し笑う。でも、ちっとも嬉しくない。
明け方近く、トイレ行こうと起きた際、坂本さんが私を抱えるようにして眠り込んでたのを見たらしい。
(そ…そうだったんだ…どおりであったかだった訳だ…)
後から知る事実は恥ずかしい。困った顔で俯く私の横で、坂本さんは理路整然と事情を説明した。
「バカ!あれは小沢さんがくしゃみをしてたから、風邪引かないように上着掛けてやっただけ。何もしてない」
少し怒った声で言う。変に誤解されても困るみたいだ。
「怪しーな…おっさんは大体、真由ちゃんをここへ入れろと相当ハルシンにハッパかけてたしな」
突つかれて言葉に詰まる。
確かに坂本さんは私を楽団に入れろと相当ハル達に勧めてたし、入るという話を聞いてとても喜んだとも聞かされた。
私と柳さんの視線が彼に集まる。それに戸惑いながら坂本さんは呟いた。
「それは…他に理由があって…」
「へぇー…どんな⁈ 」
意地悪い質問。困ったような表情で私を見た坂本さんは、完全にそっぽを向いて答えた。
「小沢さんのフルートが聞きたかったから…」
初めて見るような恥ずかしそうな顔に唖然とする。
柳さんは一瞬ポカン…として、それから大いに吹き出した。
「ブハッ!お前…どこまで楽器バカなんだよ!」
お腹抱えて苦しそうに笑ってる。
その様子を、苦い顔して坂本さんが見つめてた。
「…真由ちゃん、あのさ…」
可笑しそう笑いながら柳さんが私の方を向く。
「この楽器バカにフルート聞かせてやりなよ。私はこんな人ですって分かるように」
「えっ…」
戸惑うのも気にせず、頼むわと肩を叩く。そして立ち上がった。
「帰る。邪魔しねーように」
さっさと楽器を片付ける。その後ろ姿を見て、戸惑うように坂本さんを振り向いた。
ブスッとした表情で演奏を続けてる。その音がなんだか寂しそう…。
(私が話しかけたから…)
申し訳ないような気がする。完全に二人の練習の邪魔をしてしまった。
「あの、私…」
柳さんが帰ってしまった後、練習室に残っているのは私と坂本さんだけ。
どうすればいいのか分からず、とにかく謝ろうと思って口を開いた。
「気にしなくていいから」
マスピースを離して坂本さんが声を発した。
「えっ⁈ 」
「さっきリュウが言ったこと、気にしなくていいから」
自分がどんな人間か、分かるようにフルートを聞かせてやって…という話。それを完全に拒否られた。
「わざわざ聞かなくても練習の時に音は聞いてるし、それで十分だから」
どことなくトゲのある様な言い方。それなら何故、この楽団に誘ったの…⁈
「……坂本さんは、いつもそうなんですね」
ムッとして声に出してしまった。言わなくていいことを、つい言ってしまう。
「この間も今日も、私なんて関係ないみたいな言い方して。頭にきます。そんな態度!」
相手は年上。しかも楽団の中心人物で、会社のお客様でもあった人。
そんな人に対して、私は、またしても声を荒げてしまった。
「そんな聞かなくてもいいようなら、私なんか誘わなきゃ良かったじゃないですか!」
別にフルートを聞かせられないから…って訳じゃない。
自分がどうでもいいような扱いを受けたことがスゴく歯痒かった。
「バカみたいです…私…間に受けて。…何なんですか、ホント…」
目に涙。勿論、悔しいから。
坂本さんが困った顔する。私がこんなに怒るなんて、きっと思ってなかったはず。
「もういいです!別に聞いて欲しいとも思ってませんし、練習の邪魔もしちゃったから…帰ります!」
投げやりな感じで頭を下げる。すると坂本さんが立ち上がった。
「…待って。一緒に帰るから」
涙ぐむ私を見る。そして小さく溜め息をついた。
「ホントに気が強いね、小沢さんは」
少し笑う。でも、ちっとも嬉しくない。