音の生まれる場所
吹き終わると、坂本さんが立ち上がって拍手してくれた。
たった一人の拍手なのに、何故か涙がこみ上げてくる。
深々と頭を下げる。涙の雫はコンクリートの床に落ちて、丸いシミを作った。
「良かったよ。なんか小沢さんの意志みたいなのが伝わってきた。力強くて、細いけどハッキリしてる感じがした」
側に来て涙を拭ってくれる。
王子様みたいな顔の人にそんなことをされると妙な気分。特別扱いされてるみたい。
「ハルシンが前に言ってたんだ。小沢さんのフルートは元気が出るって。だからどうしても一度聞いてみたくて…」
照れながら教えてくれたホントの理由。
それだけの為に、私を楽団に誘ってくれた…?
「二人が言ってたこと本当だった。なんか勇気もらえた。小沢さんの持ってる芯の強さみたいなものを分けて貰った」
キレイな顔。力を分けて貰ったのは私の方が先だったのに…。
「そんなの気のせいです。私はまだまだ、人に伝えるだけのもの持っていません…」
坂本さんと二人きり。こんなに近づいて話をしたのは初めて。少し戸惑う。
「いや、本当に良かったよ」
真面目な顔で言われると返事がしにくい。でもお礼は言わないと…。
「ありがとうございます。そんな風に言ってもらえて嬉しいです」
涙がドキドキに変わる。あの朝のように優しい瞳が自分を見ている。
それだけで、キュ…と胸が詰まった。
「あっ…そう言えば折角いい演奏聞かせて貰ったのに、お礼も何もしてなかったね」
ハッとした様な顔をして、坂本さんが離れる。
何故か寂しい気持ち。どうしてだろう…。
「何もお返しできないけど、コーヒーくらい入れるから。楽器片付けて待っといて」
作業場を出て行く。その背中を複雑な思いで見送った。
(バカだな私…こんなとこにまでついて来て。坂本さんだから安心とかないのに、二人きりになって…)
音も外に届かない部屋で、下手くそなフルートを聞かせてしまった自分を愚かに思う。
楽器の音色はこのコンクリート壁に反射されて、まだその辺に漂ってるみたいだ…。
キュッ、キュッ…
磨きながら考えていたのは、さっきの坂本さんの背中の温もり。
広くて温かくて、あの夜と同じ安心感があった。
坂本さんになら自分を見せても大丈夫…そんな気がしていた。
「お待たせ」
カップを二つ、手に持って入って来る。
トレイも何も使わない。男性ってこんななのか。
「ありがとうございます」
カップを受け取り、立ち上る湯気に顔を近づける。
「いい香り。美味しそう…」
殆ど飲まないけど、このコーヒーはホントに香りが良い…。
「豆から挽いてるんだ」
坂本さんが教えてくれた。
「豆から⁉︎ 通りでこんなに香りが立ってるんですね…」
感心しながら一口。
「……美味しい!私、こんな美味しいコーヒー飲んだの初めてです!」
お世辞抜きに目が丸くなる。豆から挽いてるせい?ほんのり甘い気がする。
「いつも豆から挽くんですか?」
「まぁね。そこはどうしても譲れなくて」
作業するする椅子に腰掛け、カップを口にする。
どんな格好もサマになって見える。羨ましい人だな…。
(楽器にこどわったりコーヒーにこだわったり、職人になる人って皆こんな感じなのかな…)
少しずつ知る坂本さんのこと。
もっと知りたいって思うのは何故なんだろう…。
たった一人の拍手なのに、何故か涙がこみ上げてくる。
深々と頭を下げる。涙の雫はコンクリートの床に落ちて、丸いシミを作った。
「良かったよ。なんか小沢さんの意志みたいなのが伝わってきた。力強くて、細いけどハッキリしてる感じがした」
側に来て涙を拭ってくれる。
王子様みたいな顔の人にそんなことをされると妙な気分。特別扱いされてるみたい。
「ハルシンが前に言ってたんだ。小沢さんのフルートは元気が出るって。だからどうしても一度聞いてみたくて…」
照れながら教えてくれたホントの理由。
それだけの為に、私を楽団に誘ってくれた…?
「二人が言ってたこと本当だった。なんか勇気もらえた。小沢さんの持ってる芯の強さみたいなものを分けて貰った」
キレイな顔。力を分けて貰ったのは私の方が先だったのに…。
「そんなの気のせいです。私はまだまだ、人に伝えるだけのもの持っていません…」
坂本さんと二人きり。こんなに近づいて話をしたのは初めて。少し戸惑う。
「いや、本当に良かったよ」
真面目な顔で言われると返事がしにくい。でもお礼は言わないと…。
「ありがとうございます。そんな風に言ってもらえて嬉しいです」
涙がドキドキに変わる。あの朝のように優しい瞳が自分を見ている。
それだけで、キュ…と胸が詰まった。
「あっ…そう言えば折角いい演奏聞かせて貰ったのに、お礼も何もしてなかったね」
ハッとした様な顔をして、坂本さんが離れる。
何故か寂しい気持ち。どうしてだろう…。
「何もお返しできないけど、コーヒーくらい入れるから。楽器片付けて待っといて」
作業場を出て行く。その背中を複雑な思いで見送った。
(バカだな私…こんなとこにまでついて来て。坂本さんだから安心とかないのに、二人きりになって…)
音も外に届かない部屋で、下手くそなフルートを聞かせてしまった自分を愚かに思う。
楽器の音色はこのコンクリート壁に反射されて、まだその辺に漂ってるみたいだ…。
キュッ、キュッ…
磨きながら考えていたのは、さっきの坂本さんの背中の温もり。
広くて温かくて、あの夜と同じ安心感があった。
坂本さんになら自分を見せても大丈夫…そんな気がしていた。
「お待たせ」
カップを二つ、手に持って入って来る。
トレイも何も使わない。男性ってこんななのか。
「ありがとうございます」
カップを受け取り、立ち上る湯気に顔を近づける。
「いい香り。美味しそう…」
殆ど飲まないけど、このコーヒーはホントに香りが良い…。
「豆から挽いてるんだ」
坂本さんが教えてくれた。
「豆から⁉︎ 通りでこんなに香りが立ってるんですね…」
感心しながら一口。
「……美味しい!私、こんな美味しいコーヒー飲んだの初めてです!」
お世辞抜きに目が丸くなる。豆から挽いてるせい?ほんのり甘い気がする。
「いつも豆から挽くんですか?」
「まぁね。そこはどうしても譲れなくて」
作業するする椅子に腰掛け、カップを口にする。
どんな格好もサマになって見える。羨ましい人だな…。
(楽器にこどわったりコーヒーにこだわったり、職人になる人って皆こんな感じなのかな…)
少しずつ知る坂本さんのこと。
もっと知りたいって思うのは何故なんだろう…。