音の生まれる場所
「キザな奴でさ、安月給で生活苦しいのに、絶対にそれを口にしねーの!楽器作りの為にバイトまでしてさ…。何が楽しーんだろうって、理解できなかったよ」

楽団に入って一緒に音を重ねるうちに、少しずつ坂本さんの理想や夢が理解出来るようになった。
音を言葉のように語れるトランペットを作りたいんだと聞かされた時、

「こいつの夢が叶うなら、何でも手伝うって決めた」

熱い友情が誤解を解いていく。

「ただ単純にキザなだけじゃなかった。弱音を吐きたくなかっただけなんだ…」

私が知っている坂本さんとは、また別の一面を知ってる人の言葉。
いい関係を築いてきてたんだな…と、しみじみ思った…。


「真由ちゃん…」

少し酔っ払ってきた頃、柳さんから改めて聞かれた。

「おっさんがドイツに行っても平気?いつ帰ってくるか分からねーよ。あいつ楽器バカだから、作り上げるまできっと戻って来ねーよ?」

何も言わずにいていいのかと言いた気な表情をしていた。
自分でも何が一番いい方法なのか、よく分からない…。

「平気も何も、それが坂本さんの夢なんだから、応援しない訳にいかないじゃないですか!」

勝気な性格が幸いした。行かないで欲しいと口に出したら、きっと柳さんが坂本さんを止めると思ったから…。

「柳さんこそ、会えなくなるからって、お酒ばっか飲んじゃダメですよ!今日は特別ですからね!」
「今日だけじゃなくて、これからずっと特別な関係でいたいなー」

甘える柳さんの冗談を受け流しながら、いろんな話をして、ずっと笑ってた。
涙を流すのだけは、二度としたくないと思ったから……。


コーヒーを飲み終えて家に帰り出す。
胸の中にあるのは、淡い恋心と諦めようと思う気持ち。
どちらの声も聞けず、ただ笑って送り出そうと、思いを新たに決意していたーーーー。

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