追憶のエデン
痛みで顔を顰めれば、瞳孔が開き切り、怒りを露わにした渉さんがいた。
しかしここで怯んでる場合じゃないと思い、こちらも負けじと睨み返す。


「腕、痛いよ。離して。」


「まだ反抗的なんだね。あんなに可愛くていい子だったのに、いつから未羽はそんな悪い子になったんだ?」


「渉さんこそ、本当にどういうつもり?貴方はこんな酷い事するような人じゃなかった!変だよ渉さん!この枷も外してっ!!」


「ん?枷?…あぁ、それ未羽によく似合ってるよ。可愛い。」


恍惚とした表情であたしの手に繋がれた鎖を掴み、キスをする渉さんに恐怖を感じ、ただならぬ恐怖と身の危険に身体が小刻みに震えた。


「あれ?何、その表情?どうしちゃったの?
…もしかして、俺が怖い、とか?当たり?
そんなに怯えなくても…俺はおまえの恋人だろ?
ほら、もっと俺の側においで?」


「やだっ!こんな渉さんは知らない!」


身体を縮こまらせ身を守る様に全身で渉さんを拒絶すれば、チッと舌打ちするのが聞こえ、荒々しく両手を掴まれ無理矢理顔を上げさせられた。


「なぁ未羽…そろそろ俺も怒るよ?おまえこそいったいどうしてそこまで俺を拒絶するんだ…」


渉さんの苛立つ雰囲気に身体がびくりとし、あたしの口から発せられる筈の拒絶の言葉は、渉さんの荒々しいキスに飲み込まれてしまった。


呼吸を奪われるかの様なキスが終わり、はぁはぁと肩で息をしていると、渉さんの腕の中へと引きこまれる。
そして優しく頭を撫でられると、その仕草と同じ位優しい渉さんの声が聞こえた。


「なぁ、未羽?やっぱりあいつに連れ去られてから、おまえは変わっちまったんだな……。なんかこんなに近くにいるのにおまえがすごく遠く感じるよ。
知ってるか?おまえがあいつに連れ去られて俺がどんな気持ちだったか。
すごく自分の無力さが歯痒くて、悔しかったんだ。
でもこうしておまえをあいつから助け出す事が出来て、こうして俺の腕の中にまたおまえがいるんだと思うとすごく嬉しかったんだ。
でもさ、おまえは違うんだな?なぁ、やっぱり俺、おまえを助け出すの遅かったか?」


「渉さん……。」
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