追憶のエデン
遅いと言えば遅いのかもしれないが、しかしそれ以前に、あの神殿での事がショック過ぎて渉さんへの気持ちが分からなくなっていた。そして彼への気持ちを落ち着いてまた考えるにも、魔界で過ごした日々が許さなかった。



「未羽…――――?」



「え?どういう、意、味…?」


「おやすみ。そして――さようなら。」


首にちくりと痛みが走り、意識が無理矢理吸い込まれていくように目の前が真っ暗になった。




“ぜ ん ぶ さ い し ょ か ら や り な お そ う か 。”




「俺の事を愛してない未羽なんか必要ないんだ。
でも安心しな?俺がおまえをまた大切に、大切に、沢山愛してあげるから。」






*






――いつもここで綺麗な曲を奏でてるのは、もしかして君か?

――だいたいこの時間ここでピアノを弾いてるのは、あたしですが……あなたは?

――あぁ、ごめん。俺の名前は渉。政治経済学部の3年生だ。君の名前は?

――渉、先輩?…あたしはここのピアノ科の1年で未羽です。

――くすっ。名前すらも綺麗なんだな。
  実は俺、未羽の奏でる音色に惚れたみたいなんだ。だから、また何か弾いて聴かせて欲しい。

――やっぱり未羽のピアノはすごいな。あのさ…また聴きに来てもいいかな?あ、おまえが気にしないければ、だけど…

――あたしの演奏なんかでよければ、いつでも聞きに来てください。

――ホント?すごく嬉しいよ。ありがとう未羽。

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