追憶のエデン
*
「ねぇ、渉さん。本当にコレ、してなきゃダメ?」
「だーめ。俺が仕事に行ってる間、何があるかわからないだろ?これは未羽を守る為にあるんだから、付けてなきゃ駄目だって、何度も言ってるだろ?」
「え~。だって寝る時も付けてるし、結構コレ邪魔なんだよ?」
「それでも。おまえは悪い奴に狙われてるってもっと自覚しなさい。…本当は俺がいつでもお前の側にいて守ってやりたいけど、それが出来ないから。だから…なっ?」
「分かった…。あたしも渉さんと一緒にいたいから、我慢するね。」
「ごめんな…。それじゃあ、仕事行ってくる!いい子でここで待っててな?」
「うん。いってらっしゃい。」
軽く唇が触れ合うだけのキスをし、渉さんはお仕事へと出掛けて行った。
そしてこの広いお屋敷の一室で、渉さんの帰りを待つ。
因みに、あたしが文句を言っていたのは、この、首と足に付けられた首輪と足枷の事だった。
最初は手にも枷が嵌められていたが、流石に重くて腕が疲れてしまう事と、なんやかんや生活に支障をきたしていたため、手枷は外して貰った。
しかし、この部屋の中なら十分に動ける長さに調整された枷に付けられた鎖が邪魔で、首輪に関しては、出入口へと繋がるドアに近づくにはギリギリ足りない長さで、もし無理に出ようものなら、首が絞まって苦しい思いをする破目となる。
外そうにも、鍵穴も継ぎ目すらもなく、ただつるりとした金属特融の質感が巻かれているだけで、不思議と渉さんのみこれの取り外しをすることが出来た。
ベッドにぺたりと座り、無機質な首輪を一撫でし、そのままポフンとベッドに倒れ込めば、お日様のぽかぽかとした光が心地よく身体全体に降り注ぐ。
「あたしなんか悪い人に、何で狙われてるんだろ?」
窓の外のおしゃれなバルコニーを眺めながら、ぽつりと呟く。
「わかんなーい。
……どうして、こんなにも誰かを求めてるのか……わかんないよ……。」
青い空よりも、もっと深い鮮やかな青が、何故か恋しい――。
「渉さん…早く、帰って来て?」
恋しい。
春の様な陽だまりの中、何かを紛らわすかのように、目を閉じれば、ウトウトと思考は微睡んでいき、意識は徐々に飲まれていった。