追憶のエデン
*
「ねぇ、渉さん見て見て!」
「ん?」
「ほら、もうすぐ咲きそうなの。これとか、これとか。」
「本当だ。これなら2、3日くらいで咲くんじゃないかな?」
「ふふっ。楽しみだなぁ。そういえば、このお花の名前ってなんなの?」
「アザレアっていう花だよ。この時期位に咲くって聞いて植えて貰った。
実はさ、この庭はいつでも未羽の為だけに花を咲かせ、未羽の目を楽しませ、そして未羽を飾る為だけに存在してるんだ。」
後ろからお腹へと回されていた手の上に、あたしが手をそっと重ねれば、するりと長く綺麗な指に絡めとられ、応える様にぎゅっと握り返す。
「渉さん。大好き。」
「俺は愛してるよ。」
――クスッ
顔を斜め上へと向ければ、そのまま優しく重なる唇。そこにありったけの愛を込め合う。
「…はっ…未羽は?俺の事、愛してるって言ってくれないの?」
「愛してるわ。渉さんだけだよ…ぅんっ……。」
「……嬉しすぎて、今が幸せ過ぎて、俺……おまえの事、もう二度と手放してやらないから。
だから未羽、もっとキスしよ?」
啄む様なキスを数回繰り返し、少しずつ深くなっていく。
頭の芯まで溶かしていく様なキスの中で、僅かな理性が少しだけ何かを訴えた気がしたけど、そんな事はどうでもよくなる程、あたしは渉さんとの時間が幸せ過ぎた。
「あたし、渉さんの恋人になれて、すっごく幸せだよ。」
それが例え―――――だとしても。
*
上と下の穢れなき白に、暖かな陽射しが反射する。
大理石で出来た廊下を、少し甲高い靴音をこ気味よく響かせ歩く男は、何処か満たされた空気を纏っていた。
しかし
「おい、アダム。」
「……なんでしょうか?」
いつの間にそこに居たのだろう。
銀糸の様な髪に更に光を携え、力強い金色の瞳とは不釣り合いな程、気怠げな雰囲気の男が、前方の石柱の1つに背を預け、佇んでいた。