追憶のエデン
あれから2、3日が過ぎた。
しかし、ルキフェルの姿は何処にも見当たらず、あたし自身何もすることがないので、このお屋敷に仕えるメイドさんに言って案内して貰った書庫から、読めそうな物を幾つか見繕い読書をしながら日長一日を消費していた。


そりゃぁ、逃げようと最初は試みたものの、此処が何処なのかもわからない今、下手に動くよりも機を見て逃げ出した方が余程確実だと思い、1日目の時点で無計画に逃げ出す事を止めた。それに生活に不自由もない。ならば、とこうして気ままにすごしていたのだ。賢明な選択というより、存外お気楽な自分の性格に今は感謝したい。


だからその夜もさっさと一人での食事を済ませ、与えられた自室のソファーで寛ぎながら持って来た本の続きを読んでいた。


ペラリ、ペラリと静かなこの部屋にページを捲る音が響く。



「何の本を読んでるの?」



ハッとして顔をあげ、声をした方へと顔を向ければ、ソファーの後ろからコチラを覗くルキフェルの端整な横顔があった。


「えっ!?何で!?この部屋にはあたししかいなかった筈。」


慌ててルキフェルから距離を取ろうとすると、先程まで手の中にあった本がバサリと床に落ちる。



「この部屋は僕の自室だよ。ここ2、3日はこの城に戻れなかっただけでね。
――ただいま。イヴ。」



ニコリと微笑むルキフェルの笑顔に嫌な予感が駆け抜け、ビクリとして表情が固まる。しかし、そんなあたしの様子に気にする事なく、あたしの手を取り、指を絡め取る。


「ねぇ、イヴに見せたいものがあるんだ。来て。」
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