追憶のエデン
一人でいつもの自室に戻り、バルコニーに出て空に浮かぶ白い月を眺める。そしてこの世界で見ているこの月は、あたしが今までいた世界と同じ月なんだろうか、という疑問を抱いていた。


ルキフェルはこの空間を創ったと言った。しかしあの日、イスペラディティアの街にも同じ月が浮かんでいた。それじゃあ、どれがイミテーションであって、どれがイミテーションじゃないんだろう。――それとも全部本物なんだろうか。


(みんなに会いたいな……)


「……渉さん…」




「何で、僕以外の男の事を想って、その口から僕じゃない名前が紡がれるの?」


今までここに無かった温もりに身体を拘束され、切なげな声が耳元から聞こえた。



「ねぇ…何で?」


力が込められ、首元にルキフェルのさらさらとした髪が当たる。


「――痛っ…」



「愛してる……」



首筋に咲かされた一片の紅い花。


そして僅かに漂うヴァニラとイランイランが混ざりあった様な、不愉快な甘ったるい香り。


しかしその香りは直ぐに、切なく噛み付く様なルキフェルの唇と舌で熱に浮かされ、部屋に響き渡る水音と漏れる甘い吐息で、あたしの五感から掻き消されてしまった。
< 25 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop