追憶のエデン
「あら?お姿がどこにも見受けられないと思ったら、こちらにいらっしゃったのね?
随分探しましたのよ、ルキフェル様?」



甘ったるく媚びる様な香りと声に気付き顔をそちらに向ければ、彼と良く似た艶やかなブロンドの髪と蒼い瞳を持つ、お人形の様な可愛らしい顔と、その印象に反する程の色っぽいビジュアルの女性が立っていた。



「あら?こちらは?」


あたしの存在に気付くとあたしに微笑み掛け、ルキフェルに問うが、「君に教えるつもりはないよ。」とさらりと返し、どこか突き放すかの様だった。しかしそんな態度に臆する事なく「まぁ、つれないのね。」とクスクス上品に笑うと、彼女はここに来た用件を彼に話した。



「お父様がルキフェル様をお探しでして、一緒に来ては下さらないかしら?」


「アルベルト卿が?
……しょうがないなぁ。分かった、行くよ。」


溜息混じりに女性に答えると、あたしの方を向き直し「ごめんね…。」と謝ると、ルキフェルは急にあたしの腕を引き寄せ、耳元で二人だけにしか聞こえない約束をこっそりとする。


一気に顔が熱くなるのを感じながらも、耳を押えルキフェルを軽く睨めば、いつもの様に無邪気にあたしに笑い掛けると、その女性と共に城内へと足を向ける。


二人の後ろ姿を見送ると、途端にさっきルキフェルに囁かれた言葉を思い出してしまい、振り払うかの様に首をぶんぶんと横に振るが効果は薄い。



――今夜また僕の腕の中で君に聞くから、きちんと考えておいてね?



(馬鹿じゃないの…?)



悪態を心の中で吐いても、文句を言いたい相手は既にいない。
氷が溶け始め二層になってしまったアップルタイザーを、ストローでカラカラと混ぜ、シュワりと喉に通せば、行き先を失った言葉と共に体内に溶けていった。


彼のこういった言動は、本当に心臓に悪く、慣れるなんて事はまだ出来そうにない――。
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