追憶のエデン
「わたくしの名前はアリシアですわ。
お父様がこちらでお仕事があると聞いて、無理を言って御一緒させて貰ったんですの。
貴女のお名前は?」


「未羽です。
お客様ってアリシアさん達の事だったんですね。
それなのにあたしったらご挨拶もきちんとせず、すみませんでした……。」


振り返ってみれば、全く知らなかったとは云え、このお城の大切なお客様に対して、わざわざ出向く必要はないにせよ、こうして二度も顔を合わせているのにも関わらず、一切挨拶をしなかったのは非常識だと思う。あたしが何を言われても別に構わないけど、ルキフェルの評価をそんな事で下げる事になるかもしれないのは嫌だった。
しかし彼女は少し驚き「そのような事、わたくしは気にしませんわ。」とさらりと言うだけで、こうしたきっかけを作ってくれた彼女の優しさと気遣いに感謝を口にする。


「別に構いませんのに。



それよりも――


…仰りたくないのであれば、それでも構いませんわ…。
ただこの世界は貴女にとって危険でしかないでしょう?
だからわたくし心配で……



――未羽さん、貴女は人間でしょう?
それもまだ…肉体も、魂も持ち合わせた――生きた人間…。」



彼女の言葉に一瞬で強張る表情と身体。
何も言えずに黙ってしまえば彼女は困った様に、微笑みながら「はい、そうですなんて言える筈ありませんわよね。」と言い、あたしを真っ直ぐに見た。


「未羽さんが何故この様な状況下に置かれているのかは分かりませんし、これ以上は詮索しませんわ。
ただこの世界は、人間にとって安全ではないことは確かですわ…。だからもし困った事がありましたら、わたくしにも話して下さいませ?わたくしに出来る事でしたら、微力かもしれませんが力をお貸ししますわ。」


そう言ってあたしの手を柔らかく両手で包み込む。
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