追憶のエデン
余り食欲も湧かず、適当に済ませ部屋へと戻ればいつもと変わらない部屋が広がる。娯楽になる様なものなんて置かれていない。時間の潰し方なんて分からない。暇を持て余せば出てくるループの感情と思考。


(何でこんなに傷付いてんだろ?訳分かんない。)


「――帰りたい。
あたしを元の世界に帰してよ……。」


大きく豪華なキングベッドに身体を沈め、涙を静かに流しがら、何処にでもありふれた日常を送っていた日々を思い出していた。


大学入学と同時に、春から一人暮らしを始めた1Kのマンション。
毎日友達と笑い合って通ったキャンパス。
大変だけど楽しかった憧れのカフェでのバイト。
休日には友達と遊びに行ったり、大好きな恋人との楽しくて、ときめく時間。



――帰りたい。あたしが、未羽でいても認めて貰える場所へ……。


(帰ろう……うんん。帰るんだ。
 ――帰れる方法を、絶対見つけ出してやる。)


再度心に刻み付ければ、胸がスーっと和らいで行くのを感じた。
しかし負担の掛かり過ぎていた精神は、安息を求めて闇へと深く落ちて行ってしまった。





夜が明けきり、カーテンの隙間から朝の光が差し込む。
身体に掛かる重みに目を開ければ、見慣れた綺麗な寝顔がやっぱりあった。


昨日の朝までなら、一瞬心が跳ねはしても、この光景には見慣れていた。でも今朝はただ嫌悪感しかない。その腕からそっと抜け出そうと身を捩るけど、逆に深く引き込まれてしまい抜け出す事は叶わなかった。せめてもの反抗としてルキフェルに背を向ければ、更に力が込められる。



「行かないで…。ずっと傍にいるって約束してよ……。」



切望する声が聞こえ、肩をビクリとさせるが、安らかな寝息がまた一定のリズムで聞こえ始める。
まだ眠っている事に安堵すると、シーツをギュッと握り締め、勢いよく頭まで被る。そして目を固く閉じ、もう一度睡魔が訪れるのを暗闇で待った。
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