追憶のエデン
流石に二人で一緒に戻るのもあまり良くないと思い、先にお城へ戻った。
あたしがいなくなったからといって何か問題になっている事もなく、誰もいないエントランスを抜け、階段を上り、煌々と照らす豪華なシャンデリアが等間隔に飾られた静かな廊下を歩いていても、誰の気配も感じられなかった。
その事に安心したけど、このまま真っ直ぐあのルキフェルの自室に戻るのも躊躇われ、そのままあのピアノが置かれた部屋へと足を進めた。


ドアを開けるとここもまた、あの日に来た時と何も変わらない部屋が広がっていた。
そして置かれたソファーに深く座り、特に何かをするわけでもなくただ気怠気に窓の外を見ていた。


窓から差し込む月明かりだけがこの部屋を冷たく照らし、さっきまでの事も何だか幻の様な時間の様に感じていた。



――コンコン



「やはりこちらでしたか、未羽様。」


顔だけ声の方を向ければそこにはオロバスさんが立っていた。


「一人になりたいんです。」


あたしは彼にそれだけ伝えるとまた、外へと目線を戻す。
しかしオロバスさんの気配はこの部屋から消える事はなく、不思議に思いまた顔をドアの方へと向けると、顔の近くにオロバスさんの端正な冷たい表情があり、ドクンと心臓が音を立てた。



「他の悪魔の匂いがします。
貴女は一体今までどなたと、何をされていたんでしょうか?
大変不愉快ですので、早くその匂いを全て消してしまいなさい。」



鋭く光る真っ直ぐな双黒の眼光と力強く握られた手首に囚われれば、


「……ん?…いつもその様なお顔で男を誘うのですか?頬を紅色させ、瞳を揺らし――。
ハッ…それも他の男の匂いを付けたまま…。


――その目を私に向けるな。」


そう言われるや否や、肌触りの良い白い手袋が嵌められたオロバスさんの大きな手で目を覆われ、更に視界は闇に染まった。
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